2020年4月2日にNHK・BSプレミアムで放送された「ダークサイドミステリー」の【ナチスを騙した男 20世紀最大の贋作事件】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それでけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
イントロダクション
突然ですが、皆さまは
フェルメールはお好きでしょうか?
17世紀のオランダで活躍した画家で、風俗画の傑作を残したことで知られます。
2018年から2019年にかけて開催された「フェルメール展」では東京と大阪合わせて約122万人の来場者数を記録し、ここ日本でも根強い人気を見せています。
フェルメール作品と言えば、このように窓から入る光の描写が見事です。
また彼の青色は希少な天然石のラピスラズリを使った鮮やかな色で、それは「フェルメールブルー」と呼ばれ、多くの人を魅了しています。
まさにフェルメールといった上の作品ですが、じつはフェルメールの作品ではありません。
なんと贋作師が描いた偽物なのです!
その贋作師こそ今回の主役である「ハン・ファン・メーヘレン」なのです。
画家、そして修復師へ
《机の前に座り手紙を読む青衣の女》
ハン・ファン・メーヘレン
アムステルダム国立美術館蔵
メーヘレンはこの作品のような贋作を生涯で17点描きました。
ただ贋作を描いて終わりという訳ではなく、それらは名だたる美術研究家や評論家の目を欺き、彼が告白するまで「本物」として扱われていたのです。
そしてそこから手にした金額は64億円にのぼります。
ここでは先ず初めに、彼がどうして贋作を描き始めたのか、贋作師になるまでをまとめていきます。
フェルメールと同じオランダで生を受けたメーヘレン。
当初彼は純粋に画家を目指していました。
1913年、24歳の時にデルフト工科大学主催の絵画コンクールに絵を出品します。
その時彼が描いたのはロッテルダムにある歴史ある教会、聖ラウレンス教会の内部でした。
こちらの作品でメーヘレンは最優秀作品賞を受賞します。
写実的な画風が「正統派絵画」として高い評価を得たのです。
それまで建築を学んでいたメーヘレンは、この受賞を機に画家として生きていく事を決めます。
しかしこの時、美術界に大きな変化が訪れていました。
それまでの正統派絵画を否定する若い画家たちが台頭してきたのです。
抽象絵画やイタリア未来派、ドイツの青騎士など各地で画期的な新しい美術が生まれていきました。
このように美術の流れが変わったのは1910年と言われています。
それまでは写実的に、見たものをいかにうまく描くかというのが重要視されてきました。
しかしこの新しい流れは、個性的であり、写実の技術を必ずしも必要とはしませんでした。
画像出展元:テレビ番組「ダークサイドミステリー」より
そんな時代の変化の中で、「写実」を勉強していたメーヘレンの作品は次第に時代に取り残されていくようになります。
当然、画家としての仕事も減っていきます。
メーヘレンは生きていく為に新しい仕事に就きます。
それは古い絵画を修復する修復師でした。
画像出展元:テレビ番組「ダークサイドミステリー」より
絵画の修復とは、経年劣化による汚れや傷を修復し、オリジナルに近い状態に蘇らせることです。
これは何百年と伝わる美術品を守っていくためにも欠かせない大事な作業です。
メーヘレンはゼロから作品を生み出す「画家」ではなく、既存の作品に手を加える「修復師」の道を選びました。
そして1923年、33歳の時に修復師として生計を立てるメーヘレンにとって運命を変える依頼がやってきます。
その絵を持ち込んだのは友人のテオでした。
「修復を頼みたい」として持ち込んだのはフランス・ハルスの作品でした。
画家フランス・ハルスとは
《陽気な酒飲み》1628-30年
フランス・ハルス
アムステルダム国立美術館蔵
こちらはフランス・ハルスの代表作、《陽気な酒飲み》です。
フランス・ハルスはフェルメールと並ぶ、17世紀オランダを代表する画家です。
この作品のように躍動的な筆使いで笑顔の人物画を数多く描いたことから、「笑いの画家」と呼ばれ人気がありました。
きっかけ:ハルスの絵の修復
友人テオがメーヘレンの所に持ち込んだ絵は損傷が激しく、実の所、本物かどうかの見極めも難しいものでした。
しかし依頼は依頼です。
「ハルスっぽく修復してほしい」というテオの依頼をメーヘレンは承諾します。
メーヘレンにはハルス特有の躍動的な筆遣いを再現できるという自信がありました。
学生の頃からハルスを含む17世紀の絵画の描き方などを研究していたのです。
画像出展元:テレビ番組「ダークサイドミステリー」より
そうして修復された作品がこちらです。
元の絵の損傷が激しかったため、そのほとんどはメーヘレンによって描き直されたものです。
この作品そのものは現在行方不明になっており、今は写真が残るのみです。
しかしこの写真からでも先の《陽気な酒飲み》に見られるような、ハルスのタッチが表現されているのが分かります。
その出来栄えに修復を依頼した友人テオも大満足します。
そしてその修復した作品を、当時のハルス研究の第一人者である美術史家のホフステーデ・デ・フロートに修復したものである事を伏せて作品を見せるのです。
「これは近年まれに見るほど美しいフランス・ハルスの名画だ!」と言い、あろうことかハルス研究の第一人者から本物のお墨付きをもらうのです。
「この特徴的なタッチはハルスに間違いない、化学分析をするまでもなくハルスの作品だ」と信じ込んでしまったのです。
この時代は、美術品が「金融商品」としての価値を持ち始めた初期の頃でした。
ですので、「贋作」が作られるという事自体珍しかったのも背景にあると専門家はいいます。
その作品はその後オークション会社によって購入されます。
その購入額は約4500万円。
一人の鑑定家の鑑定によって、メーヘレンが大半を描いたその作品は、17世紀オランダ黄金時代の「価値ある名画」に変貌しました。
パート1は一旦ここまでです。
パート2へと続きます。こちら☚からご覧頂けます。
コメント
[…] こちらの記事はパート2で、パート1からの続きになります。 前回の記事はこちら☚からご覧頂けます。 […]