《三等車》ドーミエ
《三等車》1862-64年頃
オノレ・ドーミエ
メトロポリタン美術館蔵
こちらはドーミエのもう一つの代表作《三等車》。
油彩で描かれた作品です。
この時代、客車には等級が設けられており、労働者階級の人々は三等車を利用しました。
車内は薄暗く、どんよりとした空気が支配しているようです。
すし詰めに座る人々からは活気も感じられません。
乗客同士の視線が交わっていないのも、どこか異様な空気を漂わせています。
都会に暮らす人々の孤独と絶望を、ドーミエは産業革命の象徴ともいえる”鉄道”を舞台にする事で皮肉を込めて描いているようです。
しかしドーミエは暗く沈んだ人々だけを描いたわけではありません。
こちらに体を向けて座る母親と赤ん坊、老女ともたれかかる子供。
この3世代の人々をドーミエは正面から描いています。
画家は未来への希望を、女性と子供に託しているのです。
晩年のドーミエ
独自の鋭い観察眼で、時代の真に迫る作品を描いたドーミエですが、油彩画作品を描き始めたのは40歳を過ぎてからです。
20代から石版画家として活躍し、名声を得たのとは裏腹に、彼の油彩作品はあまり知られていませんでした。
けれども次世代の若い画家たちはその真価を見逃しませんでした。そして現在では印象派の先駆けとして高く評価されています。
《ドン・キホーテ》1868年頃
オノレ・ドーミエ
ミュンヘン、ノイエ・ピナコテーク蔵
ドーミエは1879年に70歳で亡くなりますが、最後の10年間はスペインの作家セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』を主題に、作品を残しています。
『ドン・キホーテ』は騎士道小説を読みすぎた主人公が、現実と物語との区別がつかなくなり、自らを”遍歴の騎士”と思い込み、冒険に出かけるというストーリーです。
ドーミエが晩年にこの主題を好んだのは、革命後に思い描いたフランス市民の理想と、そこに立ちはだかる厳しい現実との戦いを、物語に重ね合わせたのかもしれません。
今回の記事は以上になります。
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