2023年6月14日にNHKにて放送された「歴史探偵」の【謎の芸術家・本阿弥光悦】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
イントロダクション
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
江戸時代に一世を風靡した琳派。
『風神雷神』は琳派の代表作です。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
その琳派の原点ともいえる芸術家が本阿弥光悦です。
戦国時代末期から江戸時代初期に活躍しました。
京都の豊かな商工業者である町衆(ちょうしゅう)の出身である光悦は、さまざまな人から芸術を学び、そこから独自の工夫を凝らし、それまでにない斬新な芸術作品をつくりました。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
書の腕前は達人級、焼き物をつくれば現代の国宝に指定され、それ以外にも出版・工芸・茶の湯など様々な分野で才能を発揮した本阿弥光悦。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
そのマルチな才能から”日本のレオナルド・ダ・ヴィンチ”とも呼ばれる天才です。
しかし残っている史料が少なく、謎の多い芸術家でもあります。
本法寺に伝わる光悦の名品
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
京都市内にある本法寺(ほんぽうじ)。
15世紀に創建された日蓮宗の寺院で、光悦と非常にゆかりの深いお寺です。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
「本法寺」と書かれたこちらの扁額(へんがく)。
この額を手掛けたのが光悦で、またその字も光悦自筆のものです。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
本法寺は本阿弥家が代々帰依してきた菩提寺です。
ですので、光悦にまつわる名品が数多く残されているのです。
重要文化財《法華題目抄》
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
こちらは光悦直筆の書、《法華題目抄(ほっけだいもくしょう)》です。
その名の通り、法華経の題目について書かれたものです。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
文字一つ一つで線の太さ・墨の濃淡が異なるのが光悦の書の特徴です。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
光悦はその卓越した書の腕前から寛永の三筆(江戸時代初期の書の達人の三人)に数えられています。
※寛永の三筆の残る二人は、近衛信尹(このえのぶただ)と・松花堂昭乗(しょうかどうしょうじょう)です。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
光悦の芸術的な書風は「光悦流」と呼ばれる新たな流派となりました。
重要文化財『唐草螺鈿経箱』
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
こちらも本法寺に伝わる光悦の作品。
『唐草螺鈿経箱(からくさらでんきょうばこ)』です。
こちらはお経を入れるための箱で、貝殻を使った螺鈿で装飾が施されています。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
書を書けばそれが一つの流派となり、工芸を手掛ければ優れたデザイン性を発揮する。
光悦という人のすごさが分かります。
巴の庭
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
光悦は本法寺の庭園も手掛けています。
広さおよそ200坪の『巴(ともえ)の庭』には光悦のある仕掛けが隠されています。
じつはこの庭のどこかに「日蓮」という文字が隠れているのです。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
じつはこちらの石(丸い形に真ん中線が入っている)が、漢字の「日」を表しており、
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
そしてその「日」の石の隣にある「蓮(はす)」の池で、「日蓮」を表しているのです。
庭に仕掛けられた斬新な光悦の仕掛け。
この”斬新さ”こそが光悦の凄さを紐解く重要な鍵なのです。
国宝『舟橋蒔絵硯箱』
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
こちらは東京国立博物館が所蔵する本阿弥光悦の代表作。
国宝『舟橋蒔絵硯箱(ふなばしまきえすずりばこ)』です。
膨れ上がった蓋の形は、どこか不思議な印象を受けます。
じつはこの作品に光悦の凄さの秘密が隠されているのです。
光悦のギミック①違和感
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
人間の脳は違和感のあるものを見た時に「なぜこうなっているのか?」という違和感の理由を考えます。
それによりより強く注意が引きつけられるのです。
これは画像のような人の顔だけではなく、物を見た時でも同じような反応が起こるといいます。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
『舟橋蒔絵硯箱』もこの異様に膨らんだ形によって、人は目にした時に違和感を覚え、それと同時に注意も引きつけられているのです。
そしてこれが光悦の狙いでもあるのです。
光悦のギミック②アハ体験
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
人間は何かを見た時に最初は「無意味」や「分からない」と思っていた状態から、「分かった!」とひらめくと脳が活性化されます。
これは「ワンショット・ラーニング」と呼ばれる反応で、一般的には「アハ体験」と呼ばれます。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
芸術を鑑賞している場合でも、作品の意味がわかった時にこの「アハ体験」が起きます。
アハ体験が起きると感動が深まり、作品に対する評価も高まるといわれています。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
そして『舟橋蒔絵硯箱』にもこのアハ体験の要素が含まれているのです。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
『舟橋蒔絵硯箱』を真上から見ると、このように文字が散りばめられいます。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
じつはこれは平安時代の『後撰和歌集』に納められている和歌の言葉なのです。
それが単語ごとバラバラに散りばめられているのですが、それらを一つ一つ見ていくと欠けている単語があるのが分かります。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
じつは和歌の中にある単語の中で「舟橋」だけ箱の上の文字にないのです。
なぜ「舟橋」だけないのか?非常に強い違和感を感じます。
「舟橋」という単語はどこに行ってしまったのでしょう?
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
じつは「舟橋」という単語は蓋のデザインで表現されていたのです。
金で描かれた「舟」の上に「橋」が表現されていたのです。
まさに「アハ体験」ですね!
そしてこの蓋を横切る黒い部分が「橋」であることが分かると、この造形の意味も理解できるのです。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
じつはこの箱の形によって、アーチの橋が表現されているのです。
ただ不思議な形をしているのではなく、ちゃんと意味があってこの形になっている。
だからこそのこの膨らみだったのです。
画像出展元:テレビ番組「歴史探偵」より
光悦はこの作品で、見る人にまず「造形の違和感」と「和歌の文字が欠けている違和感」を植え付けます。
「なぜこんな形をしているのか?」「欠けている文字がどこにあるのか?」という問いから、その答えが分かった瞬間に感動が倍増する、そんな仕掛けを込めていたのです。
今回の記事はここまでになります。