【ぶらぶら美術・博物館】もうひとつの「怖い絵」展①

ぶらぶら美術・博物館

2020年6月23日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#350 ぶらぶらプロデュース!夢の特別展②~名画に隠された物語を解く!中野京子 もうひとつの「怖い絵」展~】の回をまとめました。

番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪

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イントロダクション

怖い絵」と言えば、作家でドイツ文学者の中野京子さんが手掛けるベストセラーシリーズです。
この著書を元にした展覧会も2017年に開催されました。

こちらの《レディ・ジェーン・グレイの処刑》は強烈な印象でした。

今回はぶらぶら美術・博物館のプロデュースで、2017年の展覧会で借りる事が叶わなかった作品を解説
夢の「怖い絵」展』として放送されたその内容をまとめていこうと思います。

2017年の「怖い絵展」についての過去記事がございます。
こちら☚から一覧をご覧いただけますので、是非ご覧ください(*^-^*)

《ダイヤのエースを持ついかさま師》ラ・トゥール


《ダイヤのエースを持ついかさま師》1635年頃
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
ルーヴル美術館蔵

この作品は”怖い絵”のコンセプトでもある、「絵を読み解く面白さ」を実感できる一枚です。

一目見ただけで「なんだか怖いな」と感じる作品ですね。


”横目の視線”で誰がいかさま師かが分かります。
そうです。この3人がグルとなり、


まだ若いこちらの青年(15,16歳)を騙そうとしているのです。
豪華な身なりからお金持ちである事が分かります。

青年の手元にはコインがこの時点ではまだ沢山あります。
油断をさせるために最初は「勝たされている」のです。
まんまと策にはめられており、視線は手札に集中、目の前で繰り広げられる「いかさま」に気づく素振りもありません。

なぜこのタイミングで”いかさま”を実行したのか?

画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より

それはこちらのお酒をついで回っている女性が、青年の手札を盗み見していたのです。
その女性が飲み物を注ぎながら、グルの女性に合図を送ったのです。

それを受けて合図を送る女性の手は、指を一本だけ差し出しています。
普通に見ると「さぁ、どうぞ」と言っているように見えますが、これが♦エース=指一本を表しているのです。

これを聞いた時はゾッとしましたね…

その合図を受けて、男性は帯の下に隠していた♦のエースを出そうとしているのです。

画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より

指で合図を送る女性の慣れた手つきと冷静な表情。
この女性は娼婦で、カモにされている青年は彼女の客だと考えられます。
女性の口車に乗せられて、まんまと連れていかれたのです。

この作品が描かれた17世紀のパリには、公営のギャンブル場が40以上あったといいます。


女性が持っているカードを見ると、トランプの裏側に模様はなく白紙なのが分かります。
この時代、トランプの裏側はこのように白色だったのです。

ですので、いくらでも”いかさま”ができたといいます。
例えば赤いワインをたらしたり、何か印をつけたりなどなど。

そこで次第に裏面をごちゃごちゃした模様にして、不正行為をできないようにしていったのです。

この絵には、”こういう所にホイホイとついて行ってはいけない”という教訓が込められた「教訓画」の側面があるといいます。

騙す側の女性たちの表情、特に”目の表現”がたいへん見事なこの作品。
この目が全てを語っている、と言っても良いでしょう。

間違いなく「怖い絵」ですが、絵画としてもかなり魅力的な作品です。

《イワン雷帝とその息子》イリヤ・レーピン


《イワン雷帝とその息子》1885年
イリヤ・レーピン
ロシア・モスクワ、トレチャコフ美術館蔵

描いたのは19世紀の後半から20世紀の初頭にかけてのロシアで活躍した、ロシア・リアリズムの巨匠イリヤ・レーピン(Ilya Yefimovich Repin、1844-1930)の作品です。


《画家イワン・クラムスコイの肖像》1882年
イリヤ・レーピン
ロシア・モスクワ、トレチャコフ美術館蔵

東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで2018年から2019年にかけて開催された「ロマンティック・ロシア」展では、彼が描いた画家クラムスコイの肖像画が展示されていました。

そしてこのクラムスコイが描いたのが『忘れえぬ女』ですね。

 


さて、《イワン雷帝とその息子》に話を戻しましょう。

”雷の帝”と呼ばれたイヴァン4世(1530-1584)。
この絵が描かれたのは彼が亡くなってから300年後の事になります。

”雷帝”の由来は二つあり、1つが生まれた時に雷が鳴っていたからというもの。
もう1つがたいへん激昂しやすい性格で、それを雷に例えたのが理由と言われています。

その雷帝が血まみれの息子を抱いています。
この絵の状況を想像してみましょう。

ある時、雷帝の部屋で物音とうめき声が聞こえてきました。
雷帝の恐ろしさを知る周囲の人間は、すぐには部屋に近づこうとしません。
そしてロウソクの明かりを頼りに恐る恐る扉を開けると、この絵の光景が広がっていたのです。

雷帝はかんしゃくを起こして、殺すつもりもないのに息子を殴ってしまい、打ちどころが悪く死なせてしまったのです。

先ずこの作品で目が行くのは、雷帝の目とその表情です。
ここからは「こんなつもりはなかったのに。取り返しのつかない事をしてしまった」という雷帝の心の内がリアルに表現されています。

このエピソードは実際にあった話だと言われています。

息子を殺してしまった理由は、以下のような話が伝えられています。

ある時息子の奥さんが妊娠していた事を理由に、式典に正装ではなく簡略の服を着て出席します。
それに腹を立てた雷帝が、その奥さんを殴ってしまい、お腹の子が流産してしまいます。

それを聞いて怒った息子が、雷帝を問い詰めるとまたしても雷帝が激高し、この絵のような事態になった、というのがエピソードです。

そもそもの息子との関係は良好だったといいます。
だからこその”雷帝のこの表情”なのです。

画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より

イワン雷帝はその治世のうち3分の2までは国家統一を成し遂げた素晴らしい君主、残りの3分の1は凶行が絶えなかったといいます。

画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より

じつはイワン雷帝は日本の織田信長とほぼ同時代を生きた人なのです。
二人には意外にも共通点も多いといいます。

一つには国家を統一した点です。
そして二人とも周囲の人間から恐れられる存在だった点も共通しています。

そして織田信長は明智光秀に討たれて、自分の子孫に天下を継がせることができませんでした。
雷帝も同じで、息子を自らの手にかけてしまった事で王朝を自分の血縁で繋ぐことができなかったのです。

ロシアはこのあとロマノフ王朝が引き継いでいきますが、このロマノフ王朝は雷帝の最初の妻の家系なのです。
つまり雷帝の血はロマノフ王朝家には入っていないのです。

画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より

この作品はモスクワにあるトレチャコフ美術館が所蔵しています。

中野京子さんはこの作品を現地で見た時、一目で描かれた400年前にワープしたように感じるほど、強烈な印象を感じたといいます。
絵画だということを忘れて、まるで雷帝の息遣いまでも聞こえてくるような、自分もその場に居合わせたような感覚になったそうです。

絶対に日本に来ない作品⁈

中野京子先生はこの作品について、「絶対に日本に来ない作品」と言っています。

その理由は2つあるといいます。
一つにはこの作品が美術館にとって大事な作品だからという事。

そしてこの作品自体が”攻撃の対象”となる場合があるからです。
じつはこの作品は過去2回、損傷事件の被害に合っているのです。

この作品を描いたレーピンが存命中の1913年、精神病を患った画家が「これは史実ではない。雷帝はこんな事をしていない」として、作品にナイフで傷が付けられました。

1913年に行われた破壊行為による損傷

画像出展元:wikipedia「イワン雷帝とその息子」より

なんだか傷が涙のようになってる気がしなくもないですが…

その後残されていた写真を元に絵は修復されますが、今度は2018年、作業員が金属製の棒を作品めがけて叩きつけ、損傷してしまいます。

2018年に行われた破壊行為による損傷

画像出展元:wikipedia「イワン雷帝とその息子」より

この作業員はウォッカを飲んでいて酔っぱらっていたと一説には言われますが、犯人の真意はわかりません。

ただ実際にイワン雷帝を崇拝する人もいるわけなので、日本で「明智光秀は謀反をしていない!」という人がいるように、「雷帝は息子を殺していない!」という人もいるそうです。

今回の記事は以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。

コメント

  1. […] *この作品については別の記事にて詳しくまとめております。 こちら☚からご覧頂けますので、よろしければ是非(^^♪ […]

  2. […] 2020年6月23日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#350 ぶらぶらプロデュース!夢の特別展②~名画に隠された物語を解く!中野京子 もうひとつの「怖い絵」展~】の回をまとめました。 今回の記事はパート2になります。 前回のパート1はこちら☚からご覧頂けます。 […]

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