2018年3月24日にテレビ東京にて放送された「美の巨人たち」の【ディエゴ・ベラスケス「セビーリャの水売り】の回をまとめました。
今回の記事はパート2になります。
前回のパート1はこちら☚からご覧いただけます。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
視線と奥行きの魔術
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
《セビーリャの水売り》を読み解くキーワード、その2つ目は”視線と奥行きの魔術”です。
老人と少年、この二人の視線は合っていませんが、壺の位置関係によって繋げられているというのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
水売りの老人は頭を短く刈り上げ、顔には深いシワが刻まれています。
彼の視線はグラスを超えて、左側のデコボコした壺に向かっています。
ここでは男性のシワが刻まれたその顔と、壺のデコボコが対応しています。
一方で滑らかな肌の少年の視線は、こちらもグラスを挟んで、今度は老人の前の素焼きの壺に向かっています。
ここでもまた、少年の滑らかな肌と壺の滑らかな表面が呼応しているのです。
そしてその視線の交差する場所に描かれているのが、水の入ったグラスなのです。
隠された交差する視線が、見る者をその一点へと引きつけているのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
この絵には更なる秘密があります。
それが”画面の奥行き”です。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
画面の一番手前の大きな素焼きの壺は、まるでキャンバスから飛び出しているように描かれています。
そこから奥にいくと、使い込まれた木の机があり、陶器の壺と水売りの老人が描かれています。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
更にグラスの水と二人の手。そして少年。最後が背景とそこに滲むように描かれた男の姿。
この何重にも重ねられた奥行きが、画面に深みを与えているのです。
まさにベラスケスの作り上げた筆の魔術といえます。
ベネチアングラスの謎
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
ベラスケスの生きた時代のセビーリャでは、水がおいしくないという事もあり、遠くの村の泉から水を運んでくる、水売りの商人が沢山いたといいます。
この作品のグラスの中にはイチジクが入っていますが、当時はそれ以外にもフェンネルやローズマリー、時には香草なども入れられたといいます。
今でいう、”ハーブウォーター”という事ですね。
描かれているグラスはベネチアングラスで、非常に高価なものです。
地味で質素な水売りが普段使うようなものではありません。
それではなぜベラスケスは、水売りの老人にベネチアングラスを持たせたのでしょう?
聖なる風俗画
ベラスケス、20歳の頃の傑作《セビーリャの水売り》。
この絵には凛とした静けさが漂っており、庶民の暮らしぶりを描いたものとは思えない厳粛さがあります。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
老人と少年が手にしているのは、豪華な装飾が施されたベネチアングラスです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
ここで最後のキーワード、”グラスの正体”です。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
こちらは17世紀後半のセビーリャの水売りの少年を描いた作品です。
左側の幼い子供が小銭を握り、右側の水売りの少年がガラスのコップに水を注いでいます。
これが一般的な「水売り」を生業としている人の姿です。
一方で、ベラスケスの描く水売りの姿はそれとは違うのが分かります。
老人は背筋をピンと伸ばし、その表情からは威厳さを感じられます。
それを受け取る少年の表情も真剣な面持ちです。
夏の暑い日の何気ない一場面というよりは、まるで神聖な静けさや厳粛さを讃えているようです。
ここにはベラスケスの狙いがあるといいます。
それは「水売りを気高い人物として描く」ことでした。
さらにはそこから発展し、”宗教的な意味、洗礼の様子を表している”ともいわれています。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
キリスト教において「水」とは、「罪を洗い清める純潔の象徴」でした。
ベラスケスは、入信(宗教を信仰を始め、信者になること)の時の洗礼の儀式を暗示させるために、この一枚を描いたという説もあるのです。
ベラスケスの野望
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
ベラスケスは20代の初め、宮廷画家になる望みを持って、マドリードを二度訪問しています(1622年と23年)。
その時に持参したのが《セビーリャの水売り》と言われています。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
スペイン王室に絵の腕前を認められたベラスケスは、24歳の若さで国王付きの画家になる事ができたのです。
とくにスペイン王フェリペ4世からの気に入られようは相当のもので、「王家の肖像画はディエゴ・ベラスケスにのみ描かせる」と言わしめるほどでした。
こうして宮廷を舞台に数々の傑作を残していくのです。
いわば宮廷での活躍の原点となったのが、《セビーリャの水売り》だったのです。
《セビーリャの水売り》はなぜロンドンに…!?
スペインで活躍したベラスケス。
なぜ《セビーリャの水売り》はロンドンにあるのでしょうか?
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
それはこのアプスリーハウスの主であった、ウェリントン公爵と深い関連があります。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
初代ウェリントン公爵のアーサー・ウェルズリーは、領土拡大を狙うナポレオンとの戦いに勝利した英雄でした。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
1808年にナポレオンの支配に対抗し、スペインで独立戦争が勃発。
イギリスはスペインを支援するために参戦します(半島戦争)。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
ナポレオンの兄であるジョゼフ・ボナパルト(ホセ1世)はスペイン王となり、スペイン王宮から絵画コレクションを略奪していました。
ウェリントン公爵はそのジョゼフ・ボナパルトを破り、ナポレオン軍がスペイン王宮より略奪した絵画コレクションを手に入れます。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
ナポレオン軍がスペインから退いたのちに王位に就いたフェルナンド7世は、その功績をたたえ、絵画コレクションをウェリントン公爵に与えたのです。
そのコレクションの中の一枚にあったのが《セビーリャの水売り》でした。
いわば、ナポレオンとの戦争でイギリスが手に入れたお宝だったのです。
今回の記事はここまでになります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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