2020年7月18日にテレビ東京にて放送された「新美の巨人たち」の【「今こそアートのチカラを」⑩ バンクシー「Game Changer」】の回をまとめました。
こちらの記事はパート3になります。
前回のパート2はこちら☚からご覧頂けます。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
ベツレヘム
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
バンクシーの名が世界中に知れ渡るきっかけとなったのが、2005年のパレスチナ・ベツレヘムの出来事でした。
この地はキリスト生誕地として世界中から巡礼者が訪れる一方で、イスラエル人とパレスチナ人居住区を隔てる大きな壁がそびえ、戦闘が絶えない街でもあります。
軍が銃を構える中、バンクシーは分離壁に9点のグラフィティ作品を残し、世界中に大々的に報じられました。
15年経った今でもバンクシーは定期的にパレスチナを訪れては作品を残して、アートを武器に戦っているのです。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
描かれているのは風船を手にした少女が壁を越えようとする姿です。
バンクシーがこの作品を描いている最中、実際にイスラエル兵の銃口が彼に向けられていたといいます。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
こちらの作品では、壁の開けられた穴の向こうに楽園の光景が広がっています。
《Angels》2017年
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
分離壁の地上5メートルの所に描かれたこちらのグラフィティ。
天使の一人はパールで、もう一人は素手でこじ開けようとしています。
この作品はバンクシーが内装やアートワークを手掛けて2017年に開業したホテル『The Walled Off Hotel』の直ぐ近くにあります。
この《Angels》と同じグラフィティを普通の街中に描いていたら意味は違っていたでしょう。
バンクシーにとって、”描く場所”も作品の一部である事が良く分かります。
《Flowers Thrower》2003年
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
イスラエル軍の軍事的占領と攻撃に対して、投石で抗議したパレスチナの男性をモチーフにした作品。
その彼の手には石ではなく花束に変えられています。
「武力ではなく、アートで世界を変えていく」というバンクシーの姿勢を体現してるのです。
世界各地に現れては強烈なメッセージを投下するバンクシー。
いつしか「アート・テロリスト」の異名を取るようになっていきます。
《The Son of Migrant from Syria》2015年
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
この作品はベツレヘムではなく、フランスで描かれたものです。
タイトルを直訳すると「シリアからの移民の息子」。
そのタイトル通り、スティーブ・ジョブズ(1955-2011)はシリア移民の子供です。
2015年12月、バンクシーはシリア移民危機をテーマにしたグラフィティを数点描いています。
移民問題において、彼らが国の資源や財源を奪っていくとして取り上げられますが、スティーブ・ジョブズがCEOを務めたアップルは世界有数の利益をあげる大企業で、年間8,000億円もの税金を払っています。
「本当に移民というのは国のものを奪っていくだけなのか?」というバンクシーのメッセージが込められています。
バンクシーにインタビューをした日本人
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
ライターで翻訳家の鈴木沓子氏。
数少ない実際にバンクシーに会ったことがある日本人です。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
2004年にバンクシー本人への直接インタビューをしています。
鈴木氏はバンクシーの印象は「想像以上に怒れる人」というイメージだったと言います。
そこには社会に対する不正義や理不尽な状況に対する”憤り”があったのです。
バンクシーはインタビューの中で「グラフィティは見る革命だ」と発言したといいます。
作品を見る事で気持ちに変化が起これば、社会を変えられる力になると彼は考えていたのです。
《Game Changer》の読み解き
ではここからは今回の主役の作品《Game Changer》に何が、そしてどういう意味を持って描かれているのか見てまいります。
まずはこちらの掲げられたナースの人形。
この人形にはモデルになった女性がいると鈴木氏は言います。
それがあのナイチンゲールです。
フローレンス・ナイチンゲール(1820-1910)は、イギリスで看護師として活躍し、医療の世界を大きく変えた人物です。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
彼女の姿を《Game Changer》に描かれた看護師と比べてみると、髪形の特徴がよく似ているのが分かります。
ナイチンゲールの残した言葉で「犠牲なき献身こそ真の奉仕である」というものがあります。
彼女は看護という仕事はボランティアで長く続けられるものではなく、プロフェッショナルとして、きちんとお給料が払われる事で成り立つという事を訴えていた人物です。
バンクシーがナイチンゲールをモデルにしたとするならば、そこには「医療従事者の方々がもっと報われて欲しい」という思いがあるのかもしれません。
そしてもう一つ、人形の手足の部分をよく見ると肌の色が黒色なのが分かります。
オーバーオールを着た男の子と比べると、一目瞭然です。
ここにはイギリス社会におけるエスニックマイノリティと呼ばれる、”移民や有色人種の人たち”が投影されているといいます。
彼らは医療現場で数多く働いています。
仕事の内容は機器の管理や清掃、警備などが多く、外部との接触が難しいものばかり。
この《Game Changer》には高い感染リスク中、低賃金で働かぜるを得ない彼らと医療現場の実情さえも克明に表しているのです。
今回の記事は以上になります。
続くパート4でラストです。
一体《Game Changer》でバンクシーが伝えたかった事は何なのか、そして彼の最大の問題作である「Dismaland」についてもまとめます。
こちら☚からご覧いただけます。
コメント
[…] 今回の記事はここまでです。 続くパート3では、そんなバンクシーの名を世界中に知らしめた2005年のパレスチナ・ベツレヘムでの出来事と作品をまとめていきます。 こちら☚からご覧頂けます。 […]
[…] 2020年7月18日にテレビ東京にて放送された「新美の巨人たち」の【「今こそアートのチカラを」⑩ バンクシー「Game Changer」】の回をまとめました。 こちらの記事はパート4、今回のバンクシーの記事のラストになります。 前回のパート3はこちら☚からご覧頂けます。 […]