【日曜美術館】プライス・コレクション①【江戸絵画コレクター】

日曜美術館

2023年5月28日にNHKにて放送された「日曜美術館」の【選 東北に届け 生命の美 〜アメリカ人コレクター 復興への願い〜】の回をまとめました。

番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。

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イントロダクション

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

2013年に仙台市博物館で開催された展覧会『若冲が来てくれました-プライスコレクション 江戸絵画の美と生命-』。
この展覧会は仙台から始まり、半年をかけて被災地を巡回しました。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

この展覧会の出展作品を所有していたのがジョー・プライスさんです。
東日本大震災で被災した人々のために何かできることはないか?」という思いから、この東北でのコレクション展が実現しました。

プライスさんは約60年に渡り、自分が良いと思った作品をコレクションしてきました。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

今となっては”江戸美術で最も有名な絵師”といえる伊藤若冲も、今日のような評価になる以前にプライスさんが埋もれた歴史の中から見つけ出していました。

その審美眼は国内の専門家からも高く評価されており、『奇想の系譜』を著した美術史学者・辻惟雄氏はプライスさんを「若冲をよみがえらせたアメリカ人」と呼びました。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

芸術は60年もの間、私に大きな喜びを与えてくれました。東北の方々にもその喜びを感じてもらえたらと思っています」(プライス氏)

今回の記事では2023年4月に93歳で亡くなったジョー・プライスさんの江戸絵画との関わり、そして2013年の展覧会についてまとめていきます。

まずはその展覧会に出展された作品から見ていきます。

長沢芦雪《白象黒牛図屏風》

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

まず最初は江戸時代中期に京都で活躍した円山派の画家、長沢芦雪(ながさわ ろせつ)の大作です。

黒い牛と白い象が屏風からはみ出さんばかりに、圧倒的な迫力で描かれています。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

黒牛のお腹のところには、かわいらしい小さな白い犬の姿が。
こちらの白い犬は最近では非常に人気になっており、キャラクター化され、グッズもよく見かけます。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

一方、象の背中には2羽のカラスがとまっています。

よく見ると、その足は震えているようにも見えます。
象の迫力に驚いたのでしょうか?

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

プライスさんが初めてこの《白象黒牛図屏風》を見た時は箱の中にバラバラの状態で、絵の裏に触れると崩れてしまいそうなほど脆い状態だったと言います。

そこで京都の修復業者にこの屏風を送り、半年の時間をかけて現在の状態にまで修復されました。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

この作品の特徴の一つが、牛と象の”視線”の描き方です。
この絵の前に立つと、鑑賞者は牛と象に”ずっと見られている”ように感じられるといいます。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

プライスさんはコレクションを展示する目的について、「作品を見て自由に語り合ってもらうこと」と話します。

ここにあるのは命です。絵も生きているんです。江戸時代の絵師たちが見せてくれる生命力を感じてほしいと思っています」(プライス氏)

鈴木其一《群鶴図屏風》

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

続いての作品は江戸琳派の絵師、鈴木其一の《群鶴図屏風(ぐんかくずびょうぶ)》です。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

生き生きとした表情で描かれた鶴の群れ。
その背後には抽象画のように表された水面が描かれています。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

琳派を代表する絵師・尾形光琳の波を彷彿とさせます。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

鶴と水の絶妙な配置が堪能できる傑作です。

番組司会の井浦新さんが面白い発見をしていました。
この屏風を横から見ていくとまるで”トリックアート”のようにクチバシや水面が重なって見えるといいます。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

確かに。これはすごいですね!

プライスさんは「屏風の折り目まで作品の一部なんですよ」と話します。

尾形光琳《群鶴図屏風》

じつは鈴木其一の描いた《群鶴図屏風》にはもととなった作品がありました



《群鶴図屏風》江戸時代(17~18世紀)
尾形光琳
ワシントンDC、フリーア美術館蔵

それがこちらの尾形光琳が描いた《群鶴図屏風》です。

この作品はワシントンDCにあるフリーア美術館というところが所蔵しています。

伊藤若冲《鳥獣花木図屏風》

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

2013年の展覧会でプライスさんが「来場者に最も見てほしい」と思ったのがこちらの作品。
伊藤若冲の《鳥獣花木図屏風》です。

こちらの作品は展覧会が行われた当時(2013年)はプライス氏のコレクションでしたが、2019年に東京・丸の内の出光美術館が作品を購入しており、2023年も出光美術館の所蔵となっています。
(なお、出光美術館はこの時《鳥獣花木図屏風》以外にも約190点の作品をプライス氏から購入しています)

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

様々な動植物がわずか1センチ四方の小さな枡目で描かれています。
これらの枡目の総数は全部で8万6千個にも及ぶといいます。

この一つ一つのマス目に模様を入れる描法は「枡目描き」と呼ばれています。
枡目描き」を用いた作品は《鳥獣花木図屏風》の他に、静岡県立美術館所蔵の《樹花鳥獣図屏風》と個人蔵の《白象群獣図》の計3点が現在では確認されています

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

奇想の画家”としても知られる若冲
その若冲の作品の中においても最も奇想天外”といえるでしょう。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

マス目の中にさらにマス目が描かれている部分もあります。
これらマス目の一つ一つが動物や鳥たちの生き生きとした姿を捉えているのです。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

プライスさんはこの作品を「若冲が考えた生きとし生けるものの楽園」だといいます。

画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より

プライスさんが2011年の東日本大震災のニュースを目にした時に、真っ先に頭に浮かんだのがこの作品だったといいます。

この屏風を被災地に送り、日本人が作り上げた素晴らしい遺産、日本人だからこそ描ける”自然の美”を見てもらいたい、プライスさんはそう思ったといいます。

鳥獣花木図屏風》はこの展覧会の始まりの作品だったのです。

今回の記事はここまでになります。
パート2に続きます(リンクはこちらから)。


◉参考資料
ジョー・D・プライス/山下裕二著『若冲になったアメリカ人 ジョー・D・プライス物語』小学館

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