2023年5月28日にNHKにて放送された「日曜美術館」の【選 東北に届け 生命の美 〜アメリカ人コレクター 復興への願い〜】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
今回の記事では、プライスさんのコレクションと向き合う姿勢や展覧会のこだわりについてまとめていきます。
プライスさんと江戸絵画の出会い
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらの一見変わった形に見える建物。
じつはカリフォルニアにあるプライスさんの自宅です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
”自然との融合”をテーマに造られたこの自宅は、アメリカの建築家バート・プリンスが手がけました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
コレクションを鑑賞するための和室も設けられています。
プライスさんは、特殊技術の特許による石油パイプラインの建設で財を成した父親の資産を受け継ぎ、江戸絵画を集めてきました。
プライスさんのコレクションの総数は1000点にのぼります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
世界屈指の江戸絵画のコレクターとなったプライスさんですが、元々は父親の会社でエンジニアとして働くために機械工学の勉強をしていました。
それまで特に日本美術に興味があったわけでもなく、”江戸”という言葉さえ知らなかったといいます。
転機が訪れたのは24歳の時のこと。
知人と訪れたニューヨークの骨董店で”ある作品”と出会うのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
それがこのブドウを描いた水墨画です。
プライスさん一度は何も買わず店を後にしましたが、その後どうしてもこの絵が忘れられず、店を再訪し購入を決めました。
(ちなみにこの時購入にあてた資金は元々スポーツカーを買うためのものだったのだそう)
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
日本美術の知識はおろか、作者が誰かも分からない《葡萄図》に一瞬で心を奪われてしまったプライスさん。
「葉っぱの下にはブドウの実がぶら下がっています。その実を見ると重さまで感じられるんです」(プライス氏)
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
「ねじれた細いつるには支えになるものを掴もうと、あちこちに伸びる力を感じます。墨しか使ってないのに成長する力まで実感させてくれるのです」(プライス氏)
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
プライスさんは作品を購入する時には作者の名前は気にしなかったといいます。
ただシンプルに、自身が「良い」と思うものを基準に作品を収集していきました。
そのプライスさんの哲学が歴史の中に埋もれていた一人の天才絵師を発掘することになりました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
それが伊藤若冲です。
その特徴は「鮮やかな色彩」と「驚異的な細密描写」。
今となっては”日本美術のスター”的存在の若冲ですが、驚くべきことにプライスさんが収集を始めた頃にはその知名度はほとんどないに等しい状態でした。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
プライスさんを江戸美術の世界に導いた《葡萄図》。
じつはこの《葡萄図》の作者こそ伊藤若冲だったのです。
当時、日本絵画の知識がなく、若冲の名も知らなかったプライスさんは、自らの感性だけで若冲作品を見つけていたのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
若冲最晩年の作、《鷲図》。
85歳の時の作品です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
一般的な若冲作品のイメージとは少しかけ離れたこの作品。
プライスさんは《鷲図》を「若冲の生涯でもっとも力強い作品の一つ」と語ります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらもプライスさんによって発見された、ある意味若冲らしくない作品です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
美術史家の山下裕二さんはプライスさんの審美眼を高く評価しています。
日本美術史の中で高く評価されていたのは、絵巻物に代表される「平安時代の美術」と、狩野永徳や長谷川等伯が活躍した「桃山美術」、この2つでした。
それらに比べて「江戸絵画」というのは、日本美術の歴史の中で一段低いものと見られていました。
しかし、日本美術の知識のないプライスさんが”素直な目”で見た時に、「一番すごい!」と思ったのが「江戸絵画」だったのです。
「自分で自分の価値観を作って見ていけばいいんだ。ということをプライス・コレクションによって教えられた」(山下裕二氏)
展覧会場での工夫
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
2013年に開催されたプライス・コレクション展では、子どもでも楽しめる工夫が見られました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらの幽霊を描いた作品。
本来のタイトルは《柳下幽霊図(りゅうかゆうれいず)》という、漢字の読めない子どもにはやや難しいタイトルです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
しかし会場の解説には『ヤナギのしたのゆうれい』と書かれています。
これなら小さなお子様でも分かりますね!
あと何気に大人でも振り仮名はありがたいです(笑)
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらは《達磨遊女異装図(だるまゆうじょいそうず)》という作品。
これはちょっと大人でも難しそうですね
達磨と遊女が描かれているのは分かりますが、どのような場面なのでしょうか?
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
それも会場の解説を見ればすぐに分かります。
達磨と遊女が互いの服を交換しているのです。
「江戸絵画は決して難しくない。ちょっとした工夫で子供でも楽しめる」とういったプライスさんの思いが細かなところに反映されているのです。
今回の記事はここまでになります。
この続きはパート3にて(リンクはこちらから)。
◉参考資料
ジョー・D・プライス/山下裕二著『若冲になったアメリカ人 ジョー・D・プライス物語』小学館
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