2023年11月26日にNHKにて放送された「日曜美術館」の【シン・芦雪伝】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
今回の記事はパート3になります。
前回のパート2はこちらからご覧ください。
⇒【日曜美術館】シン・芦雪伝②【美術番組まとめ】
《鶴亀図》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
芦雪がどのような人物であったか、それを示す確かな資料はほとんど残っていません。
しかし次の作品《鶴亀図》とそれにまつわるエピソードから、芦雪の人柄を知ることができるといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
水辺に立つ二羽の鶴と亀が描かれた、たいへん縁起の良いテーマの作品です。
この絵の依頼主は島根松江藩主の弟で、俳人として知られる雪川(せっせん)です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
現在は二羽の鶴が描かれていますが、当初はこの画像のように一羽の鶴しか描かれていませんでした。
これに満足できなかった依頼主雪川は作品を芦雪に送り返しました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
実はここに芦雪が作品に込めた考えがありました。
オスの鶴が画面の外を向いていて口を開けていますが、これは画面の外にいるメスの鶴を呼んでいるという構図になっているのです。
これにより絵の外側にも作品の世界観が広がっている、という表現をしていたのです。
しかし雪川はそれでは満足できず「もう一羽描きなさい」と芦雪に注文したのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
しかし雪川の注文に応じて画中にメスの鶴を描くと、画面の外側と画中で二羽の鶴がいることになってしまいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そこで芦雪は機転を利かせて鶴をもう一羽描きましたが、それを茶色の小型の鶴にしたのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
子供の鶴の体は茶色ですので、この子鶴を加えることで”母鶴を呼んでいる絵”に変えたのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この作品について芦雪が雪川に宛てた手紙が残っています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そこには丁寧な言葉遣いで絵についての説明をしながらも、依頼主の要望に応える文章が書かれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
さらには海苔を送ってもらったお礼もしっかりと残しています。
この文面から受ける印象はとても常識的な人物であり、相手がある種見当違いな指摘をしてきた場合でも柔軟に対応することができる、聡明な人物だと感じることができます。
重要文化財《山姥図》
和歌山で自分のスタイルを見つけた芦雪は、さらに活躍の場を広げていきます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
芦雪が亡くなる二年前、広島の地で描いた《山姥図(やまんばず)》。
山姥の姿はほぼ等身大で描かれています。
この頃は芦雪は大画面の人物画を描くようになります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
夏目漱石の小説『草枕』にも芦雪の描いた山姥について次のように書かれています。
「芦雪の山姥図を見た時、理想の婆さんは物凄いものだと感じた」。
《群猿図》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
岩山に集う猿の群れを描いたこちらの作品。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
多彩な表情を墨と筆だけで表現しています。
伊藤若冲と曾我蕭白
芦雪は自身の独創性に更なる磨きをかけていきます。
しかし同じ頃に京都で圧倒的な”奇想”で人気を博す二人の絵師がいました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
まず一人目が伊藤若冲。
現代でも高い人気を誇る絵師です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
超絶技巧ともいえる描写力と、鮮やかな色彩で対象を描きました。
彼の作品は現実を超えた命の姿を描き出しているといっても過言ではありません。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そしてもう一人が曾我蕭白です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
「奇想の絵師」と聞いて真っ先にその名が浮かぶほどの圧倒的な個性。
その画風は賛否両論を呼びながらも、一部の人たちから熱狂的に受け入れられました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
芦雪が絵師を始めた時には既に二人とも画壇を席巻する存在でした。
そんな中で芦雪はそれまでとは異なる「独自の奇想」を目指しました。
《蹲る虎図》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
《蹲(うずくま)る虎図》と題されたこちらの作品。
ふくよかで可愛らしく、従来の虎の絵に見られるような迫力はあまり感じられません。
「芦雪は同時代の画家たちの中でもちょっと違うユニークな面、ユーモアな面もありまして、この作品はまさにそれを表している作品の一つと言えると思います」(大阪中之島美術館・林野雅人氏)
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この作品は「席画(せきが)」と呼ばれるもので、宴会の席などに呼ばれた絵師がその場で即興で描いたものです。
芦雪の席画には変わった趣向があったといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この作品は輪郭線が描かれていません。
おそらく一番最初にまず顔を描いたのでしょう。
その後に刷毛を使って体の部分を放射状に描き、毛並みを表現しています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そして最後に虎の模様を入れましたが、その線は筆の勢いに任せて、ササっと描かれている印象を受けます。
顔を最初に描く事で見ている人に「猫かな?」と思わせておいて、そこから大胆に体を表現して、最後に虎柄を入れ「虎だった!」と思わせているのです。
この作品からは芦雪のエンターテイナーの側面を見ることができるのです。
《蕗図》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
芦雪の最晩年の作品です。
この作品でも芦雪の見る人を楽しませる遊び心が込められています。
一見、何が描かれているかよく分からない作品。
じつは植物の蕗(ふき)が描かれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
蕗の茎の部分には黒い点々が描かれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
じつはこの黒い点々は”蟻”なのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
掛け軸は通常、床の間に飾り離れた場所から鑑賞するものですが、その見方だと蟻の姿を確認することはできません。
近づいて見たときに初めて蟻の存在に気づく、そんなサプライズのような仕掛けを芦雪は残していたのです。
芦雪が作り出した新しい美術体験といえるでしょう。
今回の記事はここまでになります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。