2021年10月17日にNHKで放送された「日曜美術館」の【将軍からの贈り物 フランスの古城で新発見 幕末の美】の回をまとめました。
今回の記事はパート2になります。
前回のパート1はこちら☚からご覧ください。
番組内容に沿って、+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
《謡曲尽くし蒔絵料紙箱》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
使節団が日本に帰国した後、幕府は彼らへの厚遇の感謝を伝えるために御礼の品も送っています。
こちらは絢爛豪華な料紙箱(書をしたためる紙や書簡を入れるための箱)で、《謡曲尽くし蒔絵料紙箱》というものです。
謡曲とは”能(のう)”のことを指します。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
箱には銀粉を散らした豪華な蒔絵が施されています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
蓋の裏側にも装飾が施されています。
長年光にさらされていなかったことで、当時の輝きがそのままに残されています。
「蓋の裏側にも描かれているというのが、日本的な美意識といいますか。見えないところにもこだわっているという感じがしますね」(雨宮塔子氏)
なぜ今まで知られていなかったのか?
幕末に徳川幕府が贈った贈答品の数々。
その存在はこれまでほとんど知られていませんでした。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
贈られた贈答品はフランス第二帝政期のナポレオン3世の妻、ウージェニー皇后の手元にありました。
「ウージェニー皇后はその当時流行していた東洋趣味、中国とかですね、アジアの美術に関する趣味ですけれども、その流れの中で彼女自身も大変興味を持った」(東京大学教授 三浦篤氏)
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
実際にフォンテーヌブロー宮殿内には「中国美術室」や「漆の間」と呼ばれる部屋があります。
皇后はそこに中国の品や今回発見された日本美術を飾っていました。
しかし第二帝政は1870年に崩壊してしまいます。
これにより、宮殿内の日本美術の由来の分かる人がほとんどいなくなってしまったのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
フランス美術が専門の東京大学教授・三浦篤氏は、
「その由来を調べようとしたんですけど、これは簡単ではないんですね」と言います。
「もしかすると、幕末の外交における贈答品かもしれない」という予測を立てる事はできますが、その確たる証拠がなかったのです。
日本美術の専門家として日仏共同の調査チームに参加した東京学芸大学名誉教授の鈴木廣之氏は、
「『(幕末の日本美術)かもしれない』っていうので行ってますので、実物を見た時には、明治ではない幕末のものだろうなと分かった」と語ります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
さらにパート1で取り上げた《佐野の渡図屏風》の裏側が総金箔地貼りであるという点から、この屏風が特別なもの=幕府から送られたもの、だと分かったといいます。
また同じくパート1で紹介した掛け軸の表装も大きなヒントになったといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
掛け軸は一般に3種類の生地が使われます。
上下に「天・地」、絵の周りの「中廻し」、それと同じきれが用いられる「一文字と風帯」。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらは幕末の幕府内で取り交わされた外交文書、その写しです。
ここに表装ぎれの組み合わせが記載されており、それが宮殿から見つかった掛け軸と完全に一致したのです。
このことから、文久二年の使節からの贈り物だったと分かったのです。
幕府が贈答品に込めた意味
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらは文久遣欧使節団が持参した《紅葉に青鳩図(もみじにあおはとず)》。
季節は秋へと移り変わろうとする頃。
その様子が枝先から始まる紅葉によって表されています。
木には二羽の青鳩がとまっています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
描いたのは狩野春川友信(かのう しゅんせん とものぶ)。
幕府お抱えの狩野派の絵師です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
青鳩の羽をよく見ると、細部まで繊細な筆遣いで細かく描かれているのが分かります。
この作品は単に美しいだけの花鳥画ではないといいます。
じつは描かれている青鳩には、『王権の印』が込められているといいます。
いったいどういうことでしょうか?
国宝《桃鳩図》1106年または1107年? 北宋時代
徽宗筆
絹本著色 1幅
個人蔵
そのヒントとなる一枚がこちら。
中国・北宋時代の第八代皇帝である徽宗(きそう)が描いた《桃鳩図(ももはとず)》。
国宝に指定されています。
書画の才能があった皇帝が描いてこの絵によって、中国では「鳩=皇帝の象徴」とされてきました。
室町時代に将軍・足利義満の所蔵になり、「鳩=皇帝の象徴」にプラスして将軍のイメージも含まれるようになります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
フォンテーヌブロー宮殿で見つかった《紅葉に青鳩図》は、この《桃鳩図》を左右反転させたものとよく似ています。
「この絵は少なくとも日本において、中国の皇帝のイメージとそして日本の将軍のイメージ両方のイメージを持っていたと思います」(東京大学准教授・高岸輝氏)
フランスの皇帝への贈り物という事で、大国である中国、そこからきた皇帝のイメージ。
これをヨーロッパの皇帝に送る、そういう狙いがあったと考えられます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
《青鳩図》とペアになる作品がこちらの《立田紅葉図》。
描かれているのは紅葉の名所として知られる奈良の立田川です。
この場所は和歌にもよく登場する、伝統的な画題となる場所でした。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この2つの掛け軸は並べて飾る事に意味があったと考えられています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
青鳩は中国で描かれたものをそのまま使っています。
ここには漢・中国的なイメージを持たせる狙いがあったと考えられます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
一方の立田川はというと、最も歌に詠まれる伝統的な日本の秋の風景を描いています。
こちらは「和」であり、日本そのものを表しているとされます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この2つの作品がペアになっていることで、中国文化を受け継ぐ、日本の王者であるという自意識がみえるのです。
「当時の徳川将軍として見れば、やはり自分たちが中国の皇帝のイメージも取り合わせた王者の地位に君臨している、簡単に植民地化されるような国ではないという自負は海外にアピールするべきものだった」(東京大学准教授・高岸輝氏)
今回の記事はここまでになります。
パート3へと続きます。
【日曜美術館】フランスの古城で新発見 幕末の美③【美術番組まとめ】
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