2021年4月11日にNHKで放送された「日曜美術館」の【生中継!“鳥獣戯画展”スペシャル内覧会】の回をまとめました。
今回の記事はパート2になります。
前回のパート1はこちら☚からご覧いただけます。
番組内容に沿って、+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
『鳥獣戯画』丙巻
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
丙巻(へいかん)は前半と後半でテーマがガラッと変わります。
前半は人間が登場し、後半は動物が描かれます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
上の画像のちょうど真ん中の部分が、人間と動物の場面の境目になります。
なぜ異なる様式の絵が一つの巻になっているのかは分かっていませんでしたが、近年の修理の過程で「元々は一つ紙の表と裏に、それぞれ人物と動物の戯画が描かれていた」事がわかりました。
それを過去のある段階で紙をスライスして、表と裏が別々の紙になるようにしたのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
その証拠となるのが、画面中央に見える墨の黒い点です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
これと同じ墨の点が、先ほどの境目の部分から折り返した所にもあるのです。
これにより元々一枚の紙だった事が判明しました。
紙の表と裏を別々にするのもたいへんな技術ですが、それだけ上質の紙を使っていたという事にもなるのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
丙巻のラスト、蛇から逃げるようなカエルの姿で終わっています。
ゲストの片岡真実さんは「蛇はなにか悪い事の予兆かもしれない」といいます。絵巻はここで終わりますが、またここから新たな物語が始まるのを予感させます。
絵巻を見進めるにつれてストーリーが展開していく「鳥獣戯画」ですが、最後にはひゅっと別のモチーフが出てくるのも面白い点です。
重要文化財《鳥獣戯画断簡(東博本)》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
『鳥獣戯画』と同じような絵が描かれたこちらの掛け軸。
鳥獣戯画の「断簡」と呼ばれるものです。
”断簡”とは巻物から抜けてしまった場面の事をいいます。
絵巻物はたくさんの紙を糊(のり)でつなげて作られますが、その糊が弱まってくると、一部の紙が巻物から抜けてしまうことがあります。
『鳥獣戯画』には順番がよく分からない部分や、終わり方が唐突だったりする所がありますが、それは元々あった場面が抜けてしまった可能性があるのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらの断簡は、『鳥獣戯画』甲巻の一場面であったことが指摘されています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
画面真ん中から左側が『鳥獣戯画』甲巻に実際にある場面で、右側が断簡の場面になります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
ウサギとカエルの相撲の場面、その背後に萩の花があります。
そこから散っている花びらが、断簡の方にも描かれているのです。
このことから甲巻と断簡がかつて隣同士の場面だった事が推測できるのです。
『断簡』には藤の花を持ったサルと、その後ろに蓮の花の傘を持ったカエルが描かれています。
この傘は偉い人の頭上に掲げるものなので、このサルが身分の高い存在である事を表しています。
重要文化財《明恵上人坐像》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらの『明恵上人坐像』は高山寺の開山堂というお堂にまつられています。
拝観できるのは年に2回の仏事の時のみという、たいへん貴重な御像になります。
展覧会に出品されるのは、今回の「鳥獣戯画展」が28年振りになります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
ご注目頂きたいのが、明恵上人の右耳です。
よく見ると耳の上の部分が欠けているのが分かります。
明恵上人は24歳の頃に、生まれ故郷の紀州(和歌山)で修業の一環として、右耳を切り取り、それを仏様にささげました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
左の耳と比べると、その違いがよく分かります。
左右の見る向きによって、印象の変わる御像です。
『鳥獣戯画』丁巻
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
『鳥獣戯画』、最後の丁巻は鎌倉時代に描かれたと考えられています。
その特徴は他の三巻のどれとも描き方が異なっている点です。
解説の土屋貴裕氏によると「丁巻は一般にあまり画力がないと言われている」と言います。
しかし作品を良く見てみると、”ちゃんと実力のある絵師が、わざと崩して描いている”というのがわかるといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
ゲストの片岡真実さんは、丁巻について”上手い人の筆遣い”だといいます。
「(絵が)上手な人が飲み屋でサラッとコースターに描いた絵。だけどちゃんと上手い、みたいな。
きちんと描こうとしていないけど、どうしても上手くなっちゃう、っていう。
すごく少ない筆遣いでリアルな顔の表情が出ている」
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
墨の線がだんだんとかすれて、薄くなっていくのが見て取れます。かなり速いスピードでササッと筆を走らせていることがわかります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらではお経をあげているお坊さんが登場します。墨の濃淡をみると、どこから描き始めたのかがわかるようです。
じつはこのお経をあげるお坊さん、甲巻にも同様の場面があります。
甲巻では猿がお坊さんとしてお経をあげて、カエルが仏様になっていました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
丁巻のこの場面は、いわば甲巻のパロディーとなっているのです。
動物が人間のパロディーをしているのが甲巻でしたが、この丁巻はさらにその甲巻をパロディーにしているのです。
「甲巻を見ていないと、この丁巻の面白さは分からない。そういう仕掛けになっているのです」と解説の土屋貴裕氏は言います。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
続いてのシーンでは、巨大な丸太を男達が綱で引っ張っています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
引っ張ていた綱が切れて、その勢いでひっくり返っている人たちです。
爆笑して、楽し気な様子です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
その大爆笑の声が気になったのでしょうか。
公家の1人が振り返って、騒動の方を見ています。
これまでの描かれ方とは打って変わって、この公家は似絵風でしっかりと描かれています。
この丁巻を描いた作者は、「ここまでササッと描いたけど、本気を出せばこのくらい描けるんだよ!」というのを伝えたかったのかもしれません。
例えば色を塗られていたり、筆を重ねて丁寧に描いたりすれば、おのずとクオリティは上がり、上手なものに見えます。
しかしこの丁巻は、「少ないタッチでいかに上手く見せるか」という、真に力量のある絵師だからこそ、できる技が込められているのです。
そこには「あえて詳しく描かない」という引き算の美学があるのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そして丁巻のラストは、舞を踊るシーンで唐突に終わります。
この直前が、牛が暴走する場面なので、どういう繋がりなのかはよく分かりません。
よく見てみると、継ぎ目を境に紙の色が異なっているのが分かります。
恐らくこの場面はバラバラになってしまっていて、ある段階の修理作業で付け足されたものだと考えられます。
この丁巻のみならず、全ての巻において《鳥獣戯画断簡(東博本)》のように断簡がある可能性があります。
重要文化財《子犬》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この子犬像は、『鳥獣戯画』を所蔵する高山寺に伝わるもので、重要文化財に指定されています。
前脚をそろえて座り、愛くるしい瞳でこちらを見つめています。
明恵上人の書いた『夢記』に犬はたびたび登場し、1205年6月18日の夢では、「いとほしさ極まりなし」と書かれていることから、犬好きであった人物像が伺えます。
展覧会の最後、お客さんをまるでお見送りするかのように、子犬の像が展示されています。
すごく柔らかい表情、やさしい眼差しですね。
いかがでしたでしょうか。
今回の記事はここまでになります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました