2021年11月16日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#391 ゴッホが“巨匠”になるまでの全て!東京都美術館「ゴッホ展」〜世界最大のゴッホコレクター珠玉の名画が一堂に!傑作〈糸杉〉も!〜】の回をまとめました。
今回の記事はパート5になります。
前回のパート4はこちら☚からご覧いただけます。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
《種まく人》
《種まく人》1888年6月17-28日頃
フィンセント・ファン・ゴッホ
クレラー=ミュラー美術館蔵
こちらの《種まく人》は、アルル時代のゴッホ作品の中でも人気の高い一枚です。
画面いっぱいに光が満ち溢れています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
「種まく人」の主題はミレーのものがよく知られています。
ミレーの伝記を読んだゴッホは「自分もミレーのような農民画家になって、農民の暮らしを支えたい」と思うようになります。
しかしゴッホの《種まく人》はミレーのものとはかなり印象が異なります。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
”種まく人”とは元々新約聖書に書かれていたもので、男の蒔く”種”が神の言葉に例えられています。
その神の言葉である種も、適した場所に落ちなければ意味がないという教えです。
道端に落ちれば誰かに拾われてしまうかもしれませんし、石の上に落ちれば根を張ることができません。
いばらの中に落ちれば成長はしますが実をよくつけることができません。
しかし良い土地に蒔かれた種は何倍もの実りをもたらす、神の言葉もそれと同じで、素直な気持ちで聞かなければいけない、というのが『種まく人のたとえ』の教えなのです。
ゴッホはこの「種まく人のたとえ」を好んでいました。
後方で大きく描かれている太陽は”神の象徴”のような意味があるといいます。
麦を育んで、芽吹かせて成長して、収穫する、そういった一連の農作業を支える日の光がゴッホにとって神にも等しい存在でした。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
筆遣いも特徴的です。
地面は土の柔らかさを表現するような描き方です。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
後方では麦畑の縦のライン、そして放射状の光を放つ太陽。
それらがまるで迫ってくるような光の表現になっています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
山田五郎さんはこの作品を横の角度から見ると、絵の具の厚塗り具合がよく分かるといいます。
このゴッホ独特のタッチによって、太陽の光の強さや地面の柔らかさが見事に表現されているのです。
《サン=レミの療養院の庭》
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
アルルで耳切り事件を起こしたのち体調を崩したゴッホは、アルルから同じ南仏のサン=レミへと移ります。
《サン=レミの療養院の庭》1889年5月
フィンセント・ファン・ゴッホ
クレラー=ミュラー美術館蔵
こちらの《サン=レミの療養院の庭》はゴッホが療養院に入ってすぐの頃に描かれた作品です。
入院当初は自由に外出する事が許されず、療養院の庭などの身近な景色を描いていました。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
花を描く事を好んだゴッホでしたが、1889年の春は体調不良で絵が描けず、花の季節を逃してしまいます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
しかし翌5月にこの場所に来るとまだ花が咲いていたので、ゴッホはそれに非常に喜び、この庭の絵を描きました。
入所した療養院では、空いている部屋をアトリエ代わりに使う事も許されたので、ここではかなりの作品を描く事ができました。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
筆遣いはアルル時代に比べて、よりリズミカルで短いタッチを繰り返すようになっており、画面右側にそれが表れています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
それに対して左側の草むらは平坦に描かれています。
そのタッチの使い分けが、奥行きのある画面を生み出しています。
「よくゴッホって、浮世絵の影響で平面的な表現っていわれるけど、意外にそうでもない」(山田五郎氏)
《悲しむ老人(「永遠の門にて」)》
サン=レミの療養院で身近な風景を描いていたゴッホですが、体調は安定せず、発作も起こりほぼ寝たきりの状態になりました。
部屋から出るのも困難な状態のゴッホが取り組んだのが、過去の自分の作品のセルフコピーでした。
《悲しむ老人(「永遠の門にて」)》1890年5月
フィンセント・ファン・ゴッホ
クレラー=ミュラー美術館蔵
そのうちの一枚が、こちらの《悲しむ老人(「永遠の門にて」)》という作品です。
ゴッホがオランダ・ハーグにいた頃の版画作品を油彩画で模写したものです。
老人は顔を両手で覆い、悲しみに打ちひしがれている様子です。
この頃のゴッホは療養院に入り体調の回復を目指しますが、思うようにいかず、体調は悪くなるばかりでした。
そういった自らの状態や感情を、この絵に重ねながら描いていたのかもしれません。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
じつはこの作品は、ヘレーネにとって非常に特別な作品でした。
ヘレーネ夫妻の結婚25周年を祝して、夫のアントンからヘレーネに贈られたものだったのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
アントンはこの時、ゴッホの絵の他にアンリ・ファンタン=ラトゥールの絵も贈られたといいます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
今回の展覧会では、アンリ・ファンタン=ラトゥールの静物画の作品も展示されています。
ラトゥールは19世紀フランスで活躍した画家で、マネとも親交があったほか、印象派展にも参加しています。
「お祝いの絵なのに、どうしてこんな悩んでいる老人の絵を贈ったのだろう…」と思う方もいらっしゃるでしょう。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
じつはヘレーネはこの作品の元になった版画を非常に好んでいたのです。
それを知っていて、夫アントンはこの作品をプレゼントしました。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ヘレーネはたいへん喜んだといい、手紙でも「本当に嬉しかった」と書いています。
ヘレーネが気に入った理由としては、自身が好きだったというのももちろんありますが、コレクションとして見た時に重要な作品(持っておきたい作品)だったいう事も考えられます。
今回の記事はここまでになります。
続くパート6でラスト、最後は展覧会のメインビジュアルにもなっている《夜のプロヴァンスの田舎道》をまとめていきます。
コメント
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