2020年4月7日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#343 世界初!奇跡の大規模展「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」後編〜古典から印象派の誕生へ、ゴッホ「ひまわり」日本初公開!〜】の回をまとめました。
今回の記事はパート11です。
前回までのロンドン・ナショナル・ギャラリー展の特集記事一覧は、こちら☚からご覧ください。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
*開幕日及び会期が変更となっております(2020年6月6日現在)
詳細は展覧会公式HPをご確認ください。
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展公式HP:リンク
《マルタとマリアの家のキリスト》ベラスケス
18世紀後半になるとイギリスで産業革命が起こり、裕福になったイギリス人が様々なスペイン絵画を求めていきます。
ここで、ベラスケスであったりエル・グレコなどがイギリスで再評価されていくようになるのです。
《マルタとマリアの家のキリスト》1618年頃
ディエゴ・ベラスケス
ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵
パッと見ですと、ベラスケスっぽくなく見える作品ですね。
スペイン美術黄金時代を代表する画家のディエゴ・ベラスケス(Diego Velázquez、1599-1660)は、24歳の時に国王フェリペ4世の宮廷画家になります。
私たちのよく知るベラスケスの作品は、《ラス・メニーナス》をはじめとする宮廷画家時代の作品ですが、この《マルタとマリアの家のキリスト》は宮廷画家になる前(二十歳頃)に描かれたものです。
なのでイメージとちょっと違うのかもしれませんね。
このような絵画は「ボデゴン(日本語では”厨房画”)」と呼ばれました。
”酒蔵”を意味する「ボデガ」から派生したといわれています。
この作品では、女性がニンニクをすり潰してアリオリソース(ガーリック入りのマヨネーズ)を作っている所です。
それを置いてある魚につけて食べるのです。
ちなみにベラスケスのはこの作品以外にも、次のようなボデゴンの作品を描いています。
《卵を調理する老婆》1618年
ディエゴ・ベラスケス
スコットランド国立美術館
*「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」の出展作品ではありません。
「マルタとマリアの家のキリスト」という画題
このような台所のありふれた日常の場面を描いているかと思えば、窓のようなものの奥に宗教的な画題が描かれています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
マルタとマリアという姉妹の元にイエス様が訪れ時の話です。
姉のマルタはイエスのためにもてなす準備をします。
一方の妹マリアは、イエスの説法に聞き入り働こうとはしません。
しびれを切らしたマルタがイエスに対して「マリアに働くように言ってください」と言うと、キリストは「マリアの方が大事な仕事をしている」と返すのです。
個人的にいつ聞いてもしっくりこない話なのですが😓(笑)
つまり、説法を聞く事は「観想や祈り」につながり、もてなしの準備は「労働や奉仕の精神」につながるという事を示しています。
17世紀オランダの画家、フェルメールも同じ主題の作品を描いています。
(こちらの作品は「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」の出展作品ではありません)
《マリアとマルタの家のキリスト》1654-1655年頃
ヨハネス・フェルメール
スコットランド国立美術館蔵
ベラスケスの作品に話を戻しましょう。
こちらの『マルタとマリアの家のキリスト』では、料理をする女性と後ろで何か指図をする老婆が描かれています。
老婆は「マルタとマリアの家のキリスト」の場面を指さし、「あなたもこの話から教訓を得なさい」と言っているのです。
しかしこの老婆は”妹マリアの祈り”を言っているのか、それとも”姉マリアの労働”の事を示しているのか曖昧です。
これについては様々な論争がありますが、祈りか労働かの二者択一ではなく、”どちらも大事”だという事を表しているといいます。
《ベラスケス礼賛》ルカ・ジョルダーノ
《ベラスケス礼賛》1692-1700年頃
ルカ・ジョルダーノ
ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵
今回の『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』にて展示されているベラスケス作品は《マルタとマリアの家のキリスト》の一点のみですが、彼へのオマージュ作品があるのでご紹介いたします。
ルカ・ジョルダーノ(Luca Giordano、1634-1705)は、当初はイタリア・ナポリで活動していましたが、50代の頃スペイン王カルロス2世の宮廷画家としてスペインに渡ります(1687年)。
(カルロス2世は、ベラスケス(1599-1660)が仕えたフェリペ4世の子どもで次の王です)
スペインに渡ったジョルダーノはベラスケスの作品に高い関心を寄せたといいます。
特に代表作《ラス・メニーナス》に関しては、「絵画の神学である」と言葉を残したほどです。
この《ベラスケス礼賛》はそんな《ラス・メニーナス》へのオマージュ的作品です。
またジョルダーノは作品の中に自分の姿を描き入れています。
右下の眼鏡をかけた男性が、ジョルダーノ自身だと思われます。
ベラスケスが亡くなった約30年後にスペインに渡ったジョルダーノは、先代の偉大な宮廷画家へのリスペクトをこの作品に込めたのでしょう。
いかがでしたでしょうか。
今回はここまでになります。
続いてはゴヤの《ウェリントン公爵》についてご紹介いたします。
こちら☚からご覧いただけます。
コメント
[…] 今回の記事はここまでになります。 続くパート11ではスペイン絵画の巨匠ベラスケスの作品について見てまいります。 こちら☚からご覧いただけます。 […]