2020年6月27日にテレビ東京にて放送された「新美の巨人たち」の【あっと驚く世界の名建築!ノイシュヴァンシュタイン城×シーランチ】の回をまとめました。
今回の記事では、番組後半で取り上げられた『シーランチ』についてまとめていきます。
前半の『ノイシュバンシュタイン城』の記事はこちら☚からご覧ください。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
北カリフォルニア 太平洋を臨む断崖に
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
今回取り上げる『シーランチ』は、アメリカ・サンフランシスコから北へ160キロ。
太平洋を望む荒涼とした風景の中にあります。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
周囲の圧倒的な自然の中にひっそりと。
まるで景色と一体化するかのように木造の建築が佇んでいます。
土地の名前を取って、『シーランチ』と呼ばれるこの建物は、週末の別荘使いとして造られたコンドミニアムです。
シンプルなデザインと構造①
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
まるで木の箱のような造りです。
海からの強風で吹き飛ばされてしまうので、軒(のき)も庇(ひさし)も最初からありません。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
杉板の外壁は、厳しい天候にさらされ、まるで履き古しのジーンズのような味わいを醸し出しています。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
木造のゲートのその先には、勾配のある中庭が見えます。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
そして10個の住宅がこの中庭を囲むように建てられているのです。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
設計を手掛けたのは建築家のチャールズ・ムーア(1925-1993)。
20世紀アメリカの伝説の建築家です。
作り上げた3人の男たち
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
『シーランチ』の建つ場所は、年間を通して強烈な風が吹きつける難所です。
ではどうしてこれほどの厳しい場所に建てられたのでしょう?
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
その理由には『シーランチ』の建設に携わった3人の男たちが深く関わっていました。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
1962年の3月、土地開発業者のアル・ボーキーは「北カリフォルニアの海岸線16キロに及ぶ長い土地を別荘地に開発しよう」と考えました。
しかし、彼は他の土地開発者とは異なる考えを持っていました。
2011年に亡くなったアル・ボーキー氏。生前のインタビューでこのように語っています。
「私は土地をブルドーザーで切り崩し、コンクリートで固めたような街作りにはほとほと嫌気がさしていたんだ。シーランチの美しい自然を生かした街を作りたかった」
「この土地をどのように活用すればよいのか?」
そこで登場するのが第2の男です。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
土地開発業者のボーキーからシーランチの環境調査を依頼された、造園家のローレンス・ハルプリンです。
ハルプリンは1年に渡り、現地でテント暮らしをしながら自然環境の調査を行いました。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
風は年間を通じてどのように吹きつけるか。
波はどれだけの強さで、どのように断崖に打ち寄せるのか。
どんな動物や植物が生息し、生態系はどうなっているか。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
ハルプリンが導き出した結論は、「何もしないこと」でした。
その調査結果を受けたボーキーは、一人の建築家に設計を依頼しました。
それが3人目の男です。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
冒頭でも紹介したチャールズ・ムーアです。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
彼は後に「アメリカ合衆国の建築顧問」と称され、アメリカ建築界の頂点に上り詰めた男です。
伝説の建築家 チャールズ・ムーア
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
『シーランチ』の設計に着手したのはムーアが30代後半のときでした。
”自然と共生する建築”という革新的なアイデア、それを実現するために仲間たちと毎日何時間も設計に取り組みました。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
デザインの決め手となったのは近くの”木”でした。
レッドウッドと呼ばれる杉板です。
その土地の木材を使うことで、自然に負担を与えないと考えたのです。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
こうして1964年に『シーランチ』の建設が始まりました。
作業は自然を傷つけないようにと慎重に行われ、土地整備・材木搬入だけで1年という時間が掛けられました。
シンプルなデザインと構造②
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
UNIT9はチャールズ・ムーア自身がかつて別荘として使っていたところです。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
サンルームには大きな窓が西側と東側にあり、陽の光がたっぷりと注ぎ込まれます。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
リビングは窓際にベンチが取り付けられており、ここに座るとまるで海の上に浮かんでいるかのように感じられます。
まさに”自然との共生”を感じられる空間です。
『シーランチ』にはじつはヒントになった建築があります。
それは、なんと”日本建築”なのです。
日本との意外な関係とは…?
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
1952年、朝鮮戦争に徴兵されたムーア。
彼は休暇中に訪れた日本で目にした古民家に感銘を受けました。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
『シーランチ』では日本家屋特有の太い柱と梁、そして天窓からの光といった日本の古民家の良さが存分に取り入れられているのです。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
そんな『シーランチ』にもう一つ特徴があります。
まるで家の中に家があるかのような設計になっています。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
ムーアはこれらを「大きな家具」と呼んでいました。
台所や浴室、トイレなどが一つのユニットの中に収められているのです。
「空間の魔術師」と呼ばれたムーアの真骨頂ともいえる設計です。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
自然と人間は共生していくことができるのか?
その実現のために造られたの木造のコンドミニアム。
それが『シーランチ』なのです。
さいごに
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
ノイシュバンシュタイン城は王が自分を愛するためだけに建てた城です。
その内部はどこを見ても、まばゆくきらめいています。
画像出展元:テレビ番組「新美の巨人たち」より
シーランチは断崖に建ち、波に打たれ、風にさらされながらそこにあり続けます。
まるで孤高の生き物のように。
建築とは、いわば”美意識の結晶”です。
『ノイシュバンシュタイン城』と『シーランチ』は、まさに”不滅の美の伝説”といえるでしょう。
今回の記事はここまでになります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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