2023年11月19日にNHKにて放送された「日曜美術館」の【北宋絵画 ベールを脱ぐ中国芸術の最高峰】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
特別展『北宋書画精華』
東京・青山にある根津美術館。
ここで世界中の美術館から注目を集めている展覧会が2023年12月3日まで開催されています。
それが「特別展『北宋書画精華』」です。
展覧会のサブタイトルに「ーーきっと伝説になる」とあるように、北宋書画の最重要作品が一堂に会した、たいへん貴重な展覧会になっています。
北宋書画は世界的にも現存作品が限られており、北宋書画の展覧会が開かれるのは日本では初めてのことです。
北宋絵画とは?
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
中国河南省の開封(かいほう)は、10世紀から12世紀にかけて北宋王朝の都が置かれた場所です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
科挙と呼ばれる試験制度を導入し、それに合格した官僚を重用しました。
また文治政策と呼ばれる”文”と”得”で治める政策をとり、中国史上の大きな転換期となりました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
当時の開封の人口は100万人にのぼり、世界最大級の都市となりました。
社会も安定し、経済も発展していく中で、書画や工芸といった芸術の分野も花開いていきました。
その中でも特に山水画は一つの頂点を築いたといわれています。
まず初めにご紹介する作品は山水画の名品です。
《喬松平遠図》李成(款)
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
北宋三大家の一人である李成(りせい)の作品です。
この《喬松平遠図(きょうしょうへいえんず)》は李成の代表作です。
前景に背の高い松と、後景にはるかに広がる大地が描かれています。
李成は10世紀、五代から北宋時代に活躍した人物で、その山水画は後の時代に大きな影響を与えました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
縦2メートルを超える大画面の水墨画作品です。
解説の板倉聖哲氏はこの作品について「構図が非常によく考えられている作品」と言います。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
まず手前の丘陵ですが、こちらはV字型になっています。
またその左側にある大きくそびえ立った松の木によって、前景部分の大きさが表されているのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
ここでは大胆なコの字型で、松の木の明確な高さが示されています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
その真ん中の部分に、はるかに続く”遠(えん)”が表現されています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
画面の真ん中には小さな古木が描かれています。
これと手前の松との大小比によって、絵の奥行きが表現されているのです。
1000年近く前の作品ですが、現代の私たちが見ても分かる遠近の表現がなされているのです。
この時代、”3次元のイリュージョンを2次元に置き換える”という試みが行われていました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
中国はその広大な国土から南北で気候・風土が大きく異なります。
作者の李成は北の山東省の出身でした。
この作品からも凍てついた空気感を感じることができるといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
李成の家は唐の皇室の末裔にあたる家柄でした。
李成は都へ行きますが、頼っていた人が亡くなってしまい、結局士官できずにそのまま亡くなってしまう、という不遇な人生を送った人でした。
ですが李成の作り上げた山水画の様式は、やがて山水画の中心的な様式となり、その後一つの大きな流れを形成することになります。
重要文化財《寒林重汀図》(伝)董源
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
続いての作品は《寒林重汀図(かんりんじゅうていず)》、重要文化財に指定されています。
描かれているのは中国南部の江南地方の水郷風景です。
先ほどの《喬松平遠図》と同じく大画面の作品で、高さおよそ180センチにのぼります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
作者の董源(とうげん)もまた北宋三大家の一人であり、江南山水画の祖と呼ばれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
画面上部には後の中国・明の時代の文人・董其昌(とうきしょう)が記した「天下第一」の文字が見えます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
先ほどの《喬松平遠図》が凍てつく空気を表現していたのに対し、こちらの《寒林重汀図》は、対照的に湿潤な空気感を表しています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この作品は近づいて見ると画面の上の部分は墨の点と曲線だけになっています。
この部分だけを見ると、何を描いているのかよく分かりません。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
しかし、絵からだんだん離れていくと…
ただの点だった部分が家々や木々に見えてくるのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらは作品の一番上の部分ですが、ここは全く形を成していません。
じつはそれが光と影であり、かつ物を認識するというその行為の中で、見えるように描いた結果でもあるのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この作品が描かれた当時、10世紀の人も絵の前で前後に移動して、点や曲線が家や木々に変わるのを楽しんで鑑賞した、というのが文献に残されています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この作品には人物も描かれています。
こちらの場面、右側の人は良く見ると傘をさしています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
じつはこの作品は近年の研究で、白い顔料が確認されました。
それにより、この作品が雪の景色を描いたものだと分かりました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
丘の部分を見ると墨の濃淡によって光が表されています。
これにより夕方の光景を表しているとも分かるのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
つまりこの作品は”雪が散っている夕べの景”であることが読み取れるのです。
景観自体は理想的なものを描いていますが、その一方で写実的に表現することで、リアリティも追及しているのです。
《江山楼観図巻》燕文貴
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
続いての作品は掛け軸ではなく画巻です。
北宋の宮廷画家・燕文貴(えんぶんき)が描いた《江山楼観図巻(こうざんろうかんずかん)》です。
縦30センチ・全長160センチほどの画面には、水辺や山々、渓谷に点在する高層の建物が細かく描かれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
絵巻物の見方は基本的に右から左へと見ていくことになります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
しかし描かれている木々を見ると、画中の風は左から右へと流れています。
つまり鑑賞者は、まるで向かい風の中で鑑賞をしていくように見進めていくのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
画面をよく見ると、分かりにくいですが細かく建物や船が描かれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
ここでは船の上から外を眺める二人の人物が描かれています。
ものすごく小さいですが、船も非常にリアルに描かれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらの人は頭に笠をつけています。
雨が降っているのでしょうか?
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
建物の前に走り込んでいく人たち。
その中の一人は傘を広げていますので、やはり雨が降っているのでしょう。
また風も左から右へと吹いているので、傘の向きも納得です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
さらにその場面から進むと馬に乗って移動する人たちが。
ここでは傘を差していないので、雨がやんでいるのだと分かります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そして最後の部分。
それまで降っていた雨で増水したのでしょう。岩の間から勢いよく水が流れています。
このように右から左へ見ていくと、ストーリーや時間の流れがあることが分かるのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
このように細部までじっくりと見ないと分からないのがこの作品の特徴です。
現代の美術は一度見て分かること(一瞥(いちべつ))に重きを置いていますが、この時代の作品は”凝視”することによって作品のメッセージが伝わるように作られているのです。
今回の記事はここまでになります。
次のパート2では、これら北宋絵画を収集した日本人コレクターについてまとめていきます。
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【日曜美術館】北宋書画精華②【美術番組まとめ】
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