2018年12月8日にテレビ東京にて放送された「美の巨人たち」の【フェルメール『手紙を書く婦人と召使い』手紙をめぐるミステリー】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
イントロダクション
《手紙を書く婦人と召使い》1670-71年頃
ヨハネス・フェルメール
アイルランド・ナショナル・ギャラリー蔵
今回の作品は《手紙を書く婦人と召使い》です。
17世紀オランダが生んだ天才画家、ヨハネス・フェルメールの作品です。
彼の作品は世界中の人々に愛されています。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
現存するフェルメールの作品はわずか三十数点です。
(三十数点と正確な数になっていないのは、研究者によって真贋が分かれる作品があるからです)
初期の頃には大型の宗教画を描いていましたが、作品の多くは室内の壁に収まるような手頃な大きさのものです。
こちらの《レースを編む女》という作品にいたっては、【縦24センチ、横21センチ】とA4判にも満たないサイズです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
手頃な大きさとその希少性からか、フェルメール作品はこれまで何度か盗難の被害に遭っています。
こちらの《合奏》という作品は1990年にイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館から盗まれて以降、いまだに行方不明のままです。
今回取り上げる《手紙を書く婦人と召使い》も二度の盗難被害に遭っています。
一度目はアイルランドの地下組織に、二度目はアイルランドの大泥棒に盗まれますが、高すぎたために買い手がつかず、元に戻ったという経緯があります。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
この作品は2018~2019年に東京・上野の森美術館で開催された「フェルメール展」にて来日していました。
女主人と思われる婦人は、机で脇目も振らず手紙を書いています。
その隣では召使いの女性が腕を組み、何やら手持無沙汰な様子で窓の外を眺めています。
一見何気ない日常の一コマに見えますが、覗き見しているような気持ちになるのは、左側にある深い緑色のカーテンのせいでしょう。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
左側のステンドグラスがはめられた窓からは、昼の柔らかな陽射しがさし込んでいます。
フェルメールは絵の中に様々な仕掛けを用意しました。
召使いの女性の含み笑い、背後の大きな絵、床に落ちた書き損じの手紙とすぐそばの赤い何か。
それらが意味深にこの絵を世界を作り上げているのです。
フェルメールはこの絵で何を描こうとしたのでしょうか?
デルフトの町に生きて
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
オランダ南西部の町デルフト。
フェルメールはこの地で生涯を過ごしました。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
デルフトの中心にあるマルクト広場。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
フェルメールはこの広場の1キロ四方の中で生活していたといわれています。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
彼の生家は広場の裏手にある宿屋兼酒場で、父親が経営をしていました。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
幼少時代の家は広場に面していました。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
結婚したのは20歳の時。
相手はカタリーナという名の女性で資産家の娘でした。
結婚後はその妻の実家で暮らしながら、絵を描いていました。
”手紙”にまつわる人間関係
17世紀に普及した手紙は当時の最先端のコミュニケーション・ツールで、遠距離にいる家族・友人・恋人同士、仕事相手との通信手段でした。
新たにできた手紙によって、人々は思いや意志を伝える機会がそれまでに比べて格段に増えたのです。特に恋人同士に至っては愛を伝え合う絶好の機会になりました。
フェルメールは手紙という新しい通信手段に心惹かれました。
彼が描いたのは手紙に翻弄され、戸惑い、時には疑心暗鬼となる人々の喜怒哀楽のドラマです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
フェルメールと手紙との関わり。
その原点には父親の仕事が関わっていたという説があります。
当時多くの人々が集う宿屋は手紙の中継地点になることがよくありました。
「ですからフェルメールの父親の宿屋がそうした役割を担っていた可能性は十分にあるのです」(コミュニケーション・ミュージアム学芸員リューベン・フェルワール氏)
フェルメールにとって手紙は慣れ親しんだものであり、その手紙を巡る人間ドラマもまた幼い頃から見ていたものなのかもしれません。
手紙を書いている女主人の横で腕を組み、外を眺める召使いの女性。
その表情や仕草からは”気だるさ””諦め”、苦笑いからは”苛立ち”の様子も感じられます。
もしかするとこの女性はこれから手紙を先方に届けるか、手紙を集めている宿屋に持っていくのかもしれません。
シーリング・ワックスの謎
《手紙を書く婦人と召使い》。
この作品の床に目をやると、手紙が落ちています。
これは婦人が受け取った手紙だと考えられます。
その根拠は手紙の横にある赤い点。
これはシーリング・ワックスとよばれるものです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
当時はまだ封筒がなく、手紙をそのまま送っていました。
その手紙を誰にも読まれないようにするために、蝋を使って封印をしていたのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
折りたたんだ手紙にシーリング・ワックスを垂らし、家の紋章などを刻んだスタンプを押して封をしていました。
この床に落ちているシーリング・ワックスが、《手紙を書く婦人と召使い》の謎を解く重要な鍵なのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
じつはこの作品、盗難被害に遭い戻ってきた後に修復作業が行われています。
その際に塗りつぶされていた小さい赤い丸が発見されたのです。
それまで床に落ちた手紙は、婦人が書き損じたものだと思われていましたが、この発見により受け取った手紙だと解釈されるようになったのです。
恋人からきたであろう手紙は婦人によって投げ捨てられ、その拍子に封蝋も床に落ちた、こんな風に考えることができるのです。
そんな《手紙を書く婦人と召使い》には、フェルメールのメッセージが隠されているといいます。
そのヒントとなるのが、背後の壁に掛けられた絵。
この画中画の意味が分かると、絵から受ける印象も変わってくるのです。
では一体何が描かれているのか…
続きはパート2の記事にて。
【フェルメール】『手紙を書く婦人と召使い』②【美の巨人たち】
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[…] 今回の記事はパート2になります。 前回のパート1はこちら☚からご覧ください。 […]