青木繫《わだつみのいろこの宮》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
続いては青木繫の作品です。
”夭折の画家”として知られる青木が25歳の時に描きました。
1969年に重要文化財の指定を受けています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
福岡県久留米市に生まれた青木は東京美術学校に進学します。
そして在学中に画壇デビューを果たし、注目を集めます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
大学を卒業して間もなく、青木は仲間たちと房総半島に写生旅行に出かけます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そこで描かれたのが青木の代表作《海の幸》です。
この時若干22歳です。
巧みな画面構成と荒々しい筆遣いで描かれたこの作品は、たちまち話題となります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
しかしその一方、塗り残しや下書きのままのように見える箇所もあることから、「未完成ではないか」という批判もありました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そこで青木は次の作品を入念な準備をした上で取り掛かります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そして3年の歳月を経て完成したのが、《わだつみのいろこの宮》です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
《わだつみのいろこの宮》は古事記に取材した作品です。
舞台は海中で、それを物語るように気泡が描かれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
海の神の娘である豊玉姫(とよたまひめ)と、失くした釣り針を捜しになってきた山幸彦が出会うドラマチックな場面を描いています。
一気呵成に描き上げた《海の幸》とは違い、文献を読んで神話を研究し、構図や色彩を検討するために下絵を何枚も描きました。
さらに海中の世界を表現するために、実際に海に潜ったりもしたのだとか。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
青木は《わだつみのいろこの宮》を自信満々で展覧会に発表します。
ところが結果は厳しいものでした。
3等賞で、さらに3等の中でも一番下の順位だったのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この結果に青木は激怒したといいます。
実際に審査員を皮肉るような投書を送っています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
強い自負心と傍若無人な振る舞い。
その後青木は28歳の若さで亡くなります。
しかし亡くなって1年後に回顧展が開催され、そこで評価が高まります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
それまでの油彩画は「対象をいかにリアルに描くか」という事に重きを置いていましたが、青木の場合はそこから次のステップ、すなわち「自分が思い描いたイメージをどう表現するか」という事が作品に表現されており、これが次の世代の画家たちに強いインパクトを与えたのです。
そして、その次世代の代表的な画家が萬鉄五郎(よろずてつごろう)です。
萬鉄五郎《裸体美人》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
萬鉄五郎の代表作《裸体美人》。
赤い布をまとった裸の女性が草の上で寝転んでいます。その視線はこちらを見下ろしているようです。
青木繁が1911年に亡くなりますが、まさにその翌年、1912年に製作された作品です。
まさに青木繁の次の画家、といった感じですね!
重要文化財に指定されたのは2000年ということで、比較的最近といえるでしょう。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
絵のタッチは一見稚拙なようにも見えますが、これは当時パリで起こった「フォービスム(野獣派)」と呼ばれる最先端の技法を取り入れたものです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
萬鉄五郎は大正期に活躍した画家です。
《裸体美人》は東京美術学校の卒業制作として描かれました。
しかしその評価は良くありませんでした。
なんと19人中16位という順位だったのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
萬を指導・評価したのが日本洋画界の重鎮・黒田清輝でした。
《裸体美人》にはさすがの黒田も戸惑ったといいます
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらはその黒田清輝が描いた《野辺》という作品。
《裸体美人》と比べて、”女性が草むらの上に寝転んでいる点”や”色使い”等、非常によく似ているように見えます。
(描かれたのは黒田の《野辺》の方が5年ほど先になります)
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
《野辺》はいかにも”黒田清輝らしい”一枚です。
女性が草の上に優美に寝転び、手には花を持っています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
萬は大学1、2年生の頃は先生の教えに忠実な優等生でしたが、卒業間近になると自身の作風に目覚め、師匠の作風からは遠ざかるようになります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
《裸体美人》は表現やタッチが荒々しく、勢いで描いているように見えます。
けれども実際は作品を仕上げるにあたって何枚も下絵を描き、構図も入念に計算しているのです。
このような制作の仕方は、師匠の黒田清輝から学んだものなのです。
これについて解説の大谷省吾氏は「計算された野蛮さを出している」と言います。
さらに大谷氏はこの2枚の作品を比較した時に”ジェンダー関係の逆転”が見られるといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
黒田清輝の作品の方は、画家がモデルを”上から見下ろしている”構図になっています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
一方、萬鉄五郎の作品はその逆で画家がモデルを”下から見上げている”のです。
ここに”男性の画家”と”女性のモデル”の「ジェンダー関係の逆転」が見えるのです。
もちろんこの絵が描かれた明治時代に”ジェンダー”のような考え方はありません。
ある意味、現代ならではの視点といえますが、今の私たちが絵画鑑賞する上では外せないものであり、そういった視点が絵画鑑賞をより豊かなものにしていくのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
「そういう意味でも実は一筋縄ではいかない作品で、いろんな風にこの作品は、これからもますます研究して、読み解いていくことができる作品なんです」(大谷省吾氏)
今回の記事はここまでになります。