今回は京都に昨年10月に開館しました「福田美術館」をご紹介します。
京都の街並みに合う、京町屋風かつモダンでお洒落な建物です。
庭は水盤(建築物にある浅い水面)になっており、その延長線上が目の前の川と一体となっているような感覚になります。
(東京ディズニーシーの海の延長線上が、外の海と一体となっているように見えるのと同じですね)
設計を担当したのは、現東京工業大学教授の安田幸一氏です。
箱根のポーラ美術館や新江ノ島水族館を設計した事でも知られています。
福田美術館の「福田」は人の名前からとっており、京都の実業家の福田吉孝のコレクションがベースになっています。
福田吉孝は消費者金融業の「アイフル」を創業した人物です。
彼は事業でお世話になった京都の方にコレクションを公開することで恩返しをしたい、という思いがありこの地に美術館を造りました。
また嬉しい事に、この福田美術館は作品の写真撮影が基本的にOKという事です。
「美術館は大切な美術品を守る存在」という点に重きを置き福田美術館は設計されました。
そこでこの美術館では「蔵」をイメージした設計になっています。
また展示ケースのガラスはドイツ製の高透過ガラスを使用しており、作品も見やすくなっています。
展示室は大きく2つに分かれており、若冲や応挙といった江戸時代の絵画と、大観や松園などの明治以降の近代日本画に分かれています。
コレクションの総数は約1500点で、主に日本画で京都画壇を中心とした作品が占めています。
今回は2020年1月13日(月・祝)まで公開されていました「福美コレクション展」の作品をご紹介していきます。
《富士図》横山大観、1945年頃
画像出展:福田美術館ホームページより
展示室入ってすぐ正面に展示されていたのが、横山大観(1868~1958)の作品《富士図》です。
とにかく大きく、そしてインパクトのある作品です。
横山大観は富士山を描いた作品を数多く残していますが、ここまでのサイズの作品はなかなかありません。
左隻には富士がダイナミックに描かれ、一方の右隻には太陽だけが描かれており、それがより一層富士の雄大さを表しています。
雲海は胡粉(ごふん)を用い、さらにそこに墨で陰影をつけ、ふわふわの雲の質感を表現しています。
描かれたのは、1945年の戦時中です。
この頃の日本全体で物資が不足しており、このような大きな作品はもとより背景に金粉・金泥などを使うのは本来であれば難しいはずです。
しかし大観がそれを実現できたということは、もしかすると戦争の国威高揚の為に日本政府の依頼等で描かれたものかもしれません。
横山大観は水戸藩主の息子という事もあり、愛国心の強い人物でした。
戦時中も彩管報国(さいかんほうこく、絵を描いて国に奉仕するの意)として、画業で得たお金で戦闘機を陸軍に収めたりとしていたので、そういった事も十分に考えられるのです。
しかしそういった時代背景は別にしても、すばらしい作品と言えるのではないでしょうか。
背景の金は「青金(あおきん)」が用いられています。
金泥は銅が混じって赤っぽくなる「赤金」と、銀が混じって若干青っぽくなる「青金」とがあります。
大観は右隻の太陽の赤を際立たせるために、あえて青金を使ったと考えられます。
屏風は立体的なので、右から見る様子と左から見るのでは表情が異なります。
この作品でも歩きながら見ていくと、その表情の変化を楽しむことができます。
《駅路之春》木島櫻谷、1913年
画像出展:福田美術館ホームページより
読み方は「うまやじのはる」、作者は「このしまおうこく」です。
木島櫻谷(1877~1938)は、円山応挙の流れをくむ円山・四条派の最後の絵師と言われています。
近年再評価されてきており、ここ2、3年は展覧会も開かれています。
(2017年には京都、2018年には東京で展覧会がありました)
木島櫻谷は動物を描くのが大変上手いです。右隻に見える馬も大変可愛らしく描かれています。
馬の瞳にも、馬の優しさがよく表現されています。
山田五郎氏曰く「うまい画家は、馬が上手い」。
実はこの作品は長らく行方知れず(その期間78年間)となっていました。
それが2005年頃に福田コレクションに加わりました。
どうして78年行方不明だったかというと、78年前の展覧会に出品された記録が残っていましたが、それ以後に売却されてからの足取りが分からなくなっていました。
しかし作品保存状態は大変に良く、ついこの間描かれたかのような色合いが残っています。
タイトルにもある「駅路(うまやじ)」というのは、街道沿いの休憩をするような場所です。
わらじを締めなおしている人や、お茶を飲み休憩する人が描かれています。
背景や路の金色は「裏箔(うらはく)」で表しています。
裏箔とは、薄い絹地の裏に金箔を貼っているのです。
そうすることで単に金箔を貼ったギラギラした金ではなく、落ち着いた金色を出しているのです。
この作品の特徴は、独特な画面構成です。
左隻を見て頂くと、大きな木が手前に描かれています。まるで木越しに覗いているかのような、そんなアングルになっています。
実はこの木は桜の木なのです。どうしてわかるかと言いますと、画面全体に桜の花びらがひらひらと散っているのです。
画像だとちょっと分かりにくいですね、ごめんなさいm(__)m
恐らくもしこの絵の上の部分も描かれていれば、満開の桜を見る事ができるのでしょう。
しかし木島櫻谷は、あえてそれを描かずに満開の様子を散る花びらで表したのです。
いやはや、「粋」ですねぇ。
本当に春の一番良い時期を描いているんだな、と感じる作品です。
いかかでしたでしょうか。福田美術館特集のパート1はここまでです。
パート2へと続きますので、下のリンクからご覧ください。
【ぶらぶら美術・博物館】③福田美術館 パート2【応挙、蕪村、若冲、北斎、探幽】
最後までご覧頂きありがとうございます。
コメント
[…] 続いては、2019年10月にオープンした「福田美術館」をまとめています。 【ぶらぶら美術・博物館】②福田美術館 パート1【横山大観・木島櫻谷】 […]
[…] 放送を見逃した方や、もう一度内容を確認したい方は是非ご覧ください。 前回のパート1はこちらからご覧ください。 【ぶらぶら美術・博物館】②福田美術館 パート1【横山大観・木島櫻谷】 […]