2020年7月19日にNHKで放送された「日曜美術館」の【蔵出し!西洋絵画傑作15選(3)】の回をまとめました。
今回の記事はパート7になります。
前回のパート6はこちら☚からご覧頂けます。
番組内容に沿って、+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
今回の3週目は、19世紀後半のエドゥアール・マネから始まり20世紀のパブロ・ピカソまでの5作品でした。
この記事ではマネの《草上の昼食》とルノワールの《ムーラン・ド・ラギャレットの舞踏会》をまとめていきます。
《草上の昼食》マネ
「蔵出し!傑作選」西洋絵画の11作目はフランス・パリのオルセー美術館にある作品です。
《草上の昼食》1862-63年
エドゥアール・マネ
オルセー美術館蔵
なぜか裸の女性が正装した男性の隣に描かれています。
男性の視線はどこを見ているかはっきりしませんが、女性はしっかりとこちらを見つめています。
この作品は発表された当初、画壇や世間からたいへんな批判を買いスキャンダルを巻き起こしました。
《草上の昼食》は何がそんなにいけなかったのでしょう?
それは一般女性のヌードをリアルな描写、理想化されていない人体、更には挑発的なポーズで描いている事が理由でした。
画面左下には女性が脱ぎ捨てた洋服まで無造作に描かれています。
古代ギリシャの時代から、”女性のヌード”というものは神話の世界の登場人物にしか描いてはいけないというルールがありました。
そんな西洋絵画の伝統をマネは覆そうとしたのです。
それこそがマネの革新性であり、近代における新しい絵画の始まりでした。
しかしマネはただ単に”一般市民女性のヌード”を描いたわけではないのです。
《田園の奏楽》1510年頃
ティツィアーノ
ルーヴル美術館蔵
こちらは《草上の昼食》からおよそ300年前にティツィアーノによって描かれた作品です。
女の人が裸で、男の人が服を着ているという作品自体は16世紀に既に描かれていたのです。
《パリスの審判》部分
原画:ラファエロ
こちらは盛期ルネサンスの時代に活躍したラファエロの《パリスの審判》の一部分です。
描かれている三人のポーズは、《草上の昼食》の男女と一致しています。
つまりマネは西洋古典絵画の代表的な作品を踏まえた上で、それをパリの現代の風俗として描いたのです。
《草上の昼食》はマネの考える、いわば「現代の古典絵画」だったのです。
写真家ホンマタカシ氏の考察
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
2012年の日曜美術館に出演した写真家のホンマタカシ氏は、《草上の昼食》の女性の視線が気になったといいます。
”人間の目”というものは非常に強いもので、それがカメラ目線かそうでないかは非常に興味深いと言います。
さらにホンマタカシ氏が注目したのは《草上の昼食》の画面構成です。
手前向かって左の衣服、真ん中の三人の男女、そして奥で水浴びをしている女性の三層構造になっており、まるで現代の合成写真のようになっていると言います。
ではその三つの部分に分けて、それぞれを見ていきましょう。
脱ぎ捨てた衣服と散らばる食べ物が描かれています。
荒いタッチで描かれており、この部分だけでも単体の静物画のように見えます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
画面中央の男女は正装の男性と裸の女性という変わったシチュエーション。
見る人は「いったいどういう状態なんだ?」と不思議に思うでしょう。
そして森の奥ではベールをまとう女性が水浴びをしています。
ここだけを見ると、まるで神話の世界のように見えます。
このようにそれぞれの部分に分けて見ると、描かれている世界がアンバランスな事が分かります。
しかしこれこそがマネが《草上の昼食》に込めた仕掛けだったのです。
つまりアンバランスな世界を違和感を含む表現で描くことにより、見る人に「あれ?なんか構図がおかしいぞ?なんで女の人だけ裸なの?」と違和感を与えて、作品の世界に鑑賞者を引き込んでいっているのです。
《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》ルノワール
《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》1876年
ピエール=オーギュスト・ルノワール
オルセー美術館蔵
続いての「蔵出し!傑作選」西洋絵画の12作目もオルセー美術館が所蔵する作品で《草上の昼食》の隣の部屋に展示されています。
ルノワールの代表作《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》です。
描かれているのはパリのモンマルトルにある「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」というダンスホールでの休日のひとときです。
お洒落に着飾ったパリジャン、パリジェンヌたちが踊ったり歌ったりと楽し気に過ごしています。
画面全体には柔らかな木漏れ日が降り注いでいます。
ルノワールの躍動感のあるタッチは、人物の動きまでも感じさせます。
画面左下では金髪の少女がお母さんと楽し気におしゃべりをしています。
画面の細部にまで目をやると、それぞれの人物、ストーリーが見えてくるような楽しい作品です。
ルノワールはこのような言葉を残しています。
「私にとって絵画とは愛らしく、楽しく、美しいものでなければならない。
人生にはうんざりするものがあまりに多いのだから」
晩年のルノワール
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
ルノワールは60代前半の時にイタリアとの国境に程近い、南仏のカーニュ=シュル=メールという街に住むようになります。
この時彼は重度のリウマチを患い、車椅子での生活を送っていました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
晩年のルノワールの姿が映像で残されています。
絵筆をリウマチで変形した指に包帯で括りつけて、絵を描いています。
彼は体の自由がきかなくなっても好きな女性の美しさを追い求め、作品に残しました。
作家 池波正太郎氏の考察
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
1981年の日曜美術館では、「鬼平犯科帳」などの作家で知られる池波正太郎氏がルノワールについて語っていました。
その中で「ルノワールは色々なものに喜びを感ずる描き方で絵を描いた」と話しています。
先ほどご紹介したルノワールの言葉の中に「うんざりするものがあまりに多い」という言葉があります。
これは世間の様々な出来事、そしてルノワール自身が絵を描くときに思うようにいかない時にうんざりしていると池波氏は言います。
だからこそ芸術に対して理屈や説明とややこしいのもは必要なく、一目見て「あ、綺麗だな。美しいな」というその感情だけで十分であり、ルノワールの作品にはその美しさで溢れているのです。
ルノワールが”幸福の画家”とも言われる理由がそこにあるのです。
今回の記事は以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
続くパート8ではゴッホの《ひまわり》、そしてムンクの《叫び》についてまとめていきます。
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