2023年12月3日にNHKにて放送された「日曜美術館」の【まなざしのヒント 深掘り!浮世絵の見方】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
まず取り上げるのはこちらの超有名作品。
葛飾北斎の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
荒々しい波が小舟を翻弄しています。
波の白い部分は手や爪のようにも見え、今にも船乗りに襲い掛かりそうです。
見ていきたいポイントは”色の鮮やかさ”です。
色々な色彩が使われていますが、いったい何色使われているでしょうか?
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
正解は輪郭線を含めて8色の色が使われています。
どんな色が使われているか、まず4色目まで見ていきます。
- 全体の輪郭線や波に使われている藍色
- 小舟に使われる淡い黄色
- 舟底の部分に濃い灰色
- 雲に薄い茶色
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
続いて残りの4色です。
- 空の淡い灰色
- 富士山の背景と船に暗い灰色
- 海と波しぶきに薄い青色
- 波に重ねて塗られた濃い青色
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
わずか8色だけでこの鮮やかな画面が作られているのは驚きです。
じつは浮世絵にとって、使われている色の数は非常に重要でした。
浮世絵は大勢の人々に販売するため、大量生産する必要があるもので、庶民が気軽に購入できるよう値段も安く設定されていました(今の価値でいうと500円~1000円!)。
ですので色の数を少なくして、制作の手間やコストの削減をする必要があったのです。
浮世絵にとって重要な”色”ですが、これはどのように決められたのでしょう?
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
色はまず絵師(この作品なら葛飾北斎)が最初に決めます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
その決めた色を絵師から摺師(すりし)に指示します。
摺師は絵師からの要望に基づいて絵の具を調合し、希望の色に近づけます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
浮世絵というと北斎など絵師に一番スポットライトが当てられますが、版画を製作するにあたっては、絵師だけでなく摺師も大きな役割を果たしているのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
《神奈川沖浪裏》で波に使われている2色の青色が作品をより魅力的にしています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
一つは波しぶきで使われている淡い青色。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
もう一つは波の合間の濃い青色。
実はこの2色はどちらも特別な青い顔料が使われているのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
それがベロ藍という絵の具です。
ベロ藍は元々プロイセン王国の首都のベルリンで作られた人工合成顔料です。
当初は「ベルリンブルー」と呼ばれ、江戸時代には「ベロ」。
そこからさらに「ベロ藍」と変化していきました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらはベロ藍が登場する以前に製作された作品です。
この頃の青色は藍や露草などの植物から取った染料が使われていました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この海の色には露草が使われています。
緑色の部分は元はくすんだ青色をしていましたが、退色した結果この色になっているのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
一方でベロ藍の青は年月が経っても退色することがなく、色の濃淡で様々な青を表現することができました。
北斎はこの《神奈川沖浪裏》でベロ藍の特性を存分に生かして、傑作を生み出したのです。
歌川広重《名所江戸百景 玉川堤の花》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらもベロ藍を使った作品です。
歌川広重の《名所江戸百景 玉川堤の花》です。
満開の桜並木の背景に、ベロ藍で摺られた青空が広がります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
川沿いを歩く人々が桜を見て楽しんでいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この作品のポイントは、ベロ藍のグラデーションの色鮮やかさです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
絵師の歌川広重は川のグラデーションを表現するために何か線を描いていたりするわけではありません。
このグラデーションは摺師の判断・技術によって表現されているのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
前に紹介した北斎の波の表現とは対極といえます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
北斎は水しぶきや水の動きなども一つ一つ丁寧に描いています。
北斎は「細かいところまで自分で描きたいし、自分の指示通り摺ってほしい」という考え方なのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
一方で広重の方は、「空とか川は空けておいたから、うまく摺師さんの方で頼むよ」という姿勢なのです。
課題:どちらが早く摺られたのか?
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
それではここで問題です。
何枚も摺られる浮世絵には、早い段階の摺りと遅い段階の摺りがあります。
こちらの2枚の同じ作品。
パッと見の印象では色合いや雨の描写など違いがみられるこの2枚は、どちらの方が早く摺られたでしょうか?
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
正解は左側の方が早い摺りの作品になります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
まずこちらの雨の部分で比べてみます。
浮世絵は摺る回数が増えるほど、版木が摩耗していきます。
その結果、最初は細かった雨の線がだんだんと太くなってしまうのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
次に”色”という部分で比較していきます。
早い方の摺りは繊細な色使いですが、摺りを重ねていくとだんだんと手を抜いていたり、失敗してる部分が出てくるといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
例えばこちらの人物で見てみます。
早い方の摺りはかごの色と木の棒の色がそれぞれ違う色になっていますが、遅い方の摺りはこれらの部分がすべて同じような茶色になっているのがわかります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらは遅い方の摺りですが、人物がかぶっている笠の部分の色がずれてしまっています。
笠の黄色の部分に灰色が入り込んでしまっています。
このようになってしまった理由について、解説の日野原健司さんは次のように話します。
「摺り重ね寝ている間に『ちょっと雑でもいいかな』みたいな部分が出てきた。
ただ”雑”というのも当時の職人さんに悪いので、(言い方を変えると)それだけ人気があった。人気があったからこそたくさん作ろうという。当時のそういった人気が反映されている」
今回の記事はここまでになります。
パート2へと続きます。
【日曜美術館】浮世絵の見方②【美術番組まとめ】