2023年11月26日にNHKにて放送された「日曜美術館」の【シン・芦雪伝】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
イントロダクション
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
今回取り上げるのは江戸時代に活躍し、”奇想の絵師”とも呼ばれる長沢芦雪(ながさわ ろせつ)です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
大胆不敵な筆さばき、常識破りの奇抜な作風で知られる芦雪は、その性格もまた破天荒な人物だったと伝えられています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そのような性格が災いし、最期には他者の恨みを買い、暗殺されたのだといいます。
しかし、これらの伝承は真実なのか?
謎多き芦雪の人物像とその作品に迫ります。
特別展『生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー』
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
大阪にある大阪中之島美術館。
ここで芦雪の生誕270年を祝した展覧会が開催されています(2023年12月3日まで)。
まずは展覧会の出展作品をご紹介します。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
《龍図襖》です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
《虎図襖》は芦雪33歳の時の作品です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらは今回の展覧会で半世紀ぶりに公開された作品で、和歌山県の那智(なち)の滝を描いたものです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
水流の激しさを見事に表現していますが、じつは白い部分は色を塗っているのではなく、元の絹地本来の白色を残すことで表現しています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
続いてはこちらのパッと見では、よく分からない作品。
中央の3センチ四方の小さな正方形に近づいて見ると…
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
なんと500人の羅漢が描かれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
驚くべき細密描写です。
どの羅漢もしっかり形が描かれ、この小ささでも躍動感をもって表現されています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらは中国の禅の逸話を描いた《絵代わり図屏風》。
見る人を楽しませる作品です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
六幅ある中でも特に気になるのがこちら。
画面下半分が黒く塗られ、その上には船が描かれています。
この黒い部分が海だとしたら、船は空に浮いていることになります。
だとすると陸地でしょうか?
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
実はこの黒い部分はクジラの背中なのです。
この絵ではクジラ越しに見た漁の世界が表されているのです。
伝記『蘆雪物語』
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
奇想の絵師として知られ、注目されている芦雪。
展覧会は連日多くの人でにぎわっています。
しかしその一方で芦雪に関する資料はほとんど残っておらず、その生涯は謎に包まれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そんな芦雪についてまとめた『蘆雪物語』という伝記があります。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
作者は美術史家の相見香雨(あいみ こうう)。
相見は芦雪の子孫やゆかりの人物に聞き取り調査を行い、謎多き芦雪の実像に迫ろうとしました。
この伝記には芦雪の人となりをうかがい知る驚きのエピソードが収められています。
その中からいくつか紹介します。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
多趣味かつ多芸だったいう芦雪。
特に独楽(こま)廻しは大の得意で、殿様の前で披露するほどの腕前でした。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
そこで芦雪の身に悲劇が起こります。
高く放り投げたコマが目に直撃してしまうのです。
しかし芦雪は芸を中断することなく、「心配無用」と言い、芸を続けたといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この事故で芦雪は片目の視力を失ってしまったというのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
『蘆雪物語』には芦雪の気品の高さを物語る逸話も書かれています。
ある時芦雪は丹波亀岡藩の殿様から絵の依頼を受けます。
そこで1メートル50センチ超えの大作の作品を仕上げます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
しかしその完成作を納めようとすると、「値段が高い」という理由で取り次いだ家来から値引きを求められます。
しかし芦雪は値引きに応じず、腹を立て帰ってしまいます。
さらにその作品を別の人物に売ってしまったのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
これを知った丹波亀岡藩の殿様は大激怒。
家来はその責任を取り、切腹することになったといいます。
『蘆雪物語』に書かれている逸話は、芦雪を天才且つ傲慢な人物として描いています。
しかし、それらはどこまで真実なのでしょうか?
《大黒天図》
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
京都にある福田美術館。
こちらで開催中の展覧会(ゼロからわかる江戸絵画 ーあ!若冲、お!北斎、わぁ!芦雪ー※2024年 1月8日まで)で、芦雪の再検証を迫る作品が展示されています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
それがこちらの《大黒天図》です。
なんとこの作品は今回52年ぶりに発見されました。
縦164センチ・幅99センチの大画面に大黒天が描かれています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
半世紀以上に渡り行方不明であったため、幻の作品といわれていた《大黒天図》。
行方知れずになる前に撮られた写真だけが唯一の資料でした。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
その写真を見ると、大黒天の手の部分、小槌を持っているその手は奥行きがなく平面的に見えます。
この遠近表現から、伝承通り芦雪は隻眼であったと考えられてきました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
しかし今回実物が発見されたことで、芦雪研究の第一人者の岡田秀之さんは「本当に隻眼だったのか?」という疑問が生まれたといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
岡田さんによると、実物の大黒天の手元を見ると、写真で見るほどじつは平面的ではなく、手元はちゃんと立体的に表されていて、また胸の前にある空間もしっかり表現されているといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
大黒天は後ろに大きな袋を背負っていますが、そこにもふっくらとした奥行きが表現されています。
この立体感の表現により、片方の目が不自由だったという点に疑問が生じるといいます。
「決して不自由な中で制約があって描いたというよりは、こういう描き方をしようということで描いた表現の一つとして見る方がより自然じゃないかなと思います」(岡田秀之氏)
今回の記事はここまでになります。
パート2に続きます。
⇒【日曜美術館】シン・芦雪伝②【美術番組まとめ】