2022年11月27日にNHKで放送された「日曜美術館アートシーン」の展覧会紹介の内容をまとめました。
*画像出展元:テレビ番組「日曜美術館 アートシーン」より
「ヴァロットン―黒と白」
@三菱一号館美術館
それはまさに”サスペンスドラマ”。
わずかに開いたドアから男が忍び込み、ナイフで襲いかかるその瞬間。
”白い部屋”の中で暗殺者のまとう”黒”が不安と恐怖をかきたてます。
19世紀末に活躍したフェリックス・ヴァロットンの版画作品に注目した展覧会です。
1865年。
ヴァロットンはスイスで生まれ、16歳の時に画家を目指してパリにやって来ました。
ヴァロットンはジャポニスムなどの影響を受け、木版画の制作を始めます。
こちらは初期の作品。
故郷アルプスにそびえる山、マッターホルンを簡素化された線と大胆な構図で表現しました。
その後ヴァロットンはパリの人々をユーモアと風刺を交えて描き、人気を獲得していきます。
《街頭デモ》と題されたこちらの作品。
人々が一目散に逃げる場面が描かれます。
乳母車を押す女性も騒動に巻き込まれています。
フランスを讃える歌を聴く大勢の聴衆。
政治への不満が高まる中で多くの人が拍手を送っていますが…
なかには退屈そうにしている人も。
ヴァロットンの目は当時の愛国的主義的な風潮を冷静に見つめているようです。
やがてその視線は富裕層へと向けられます。
代表作である『アンティミテ』は、男女のただならぬ関係を描いたシリーズです。
密室で抱き合う2人。ですが、この絵のタイトルは《嘘》。
偽りの愛をささやいているの男と女、どちらでしょうか?
《取り返しのつかないもの》と題された一枚。
気まずそうに座る男女の手元に注目してください。
近づこうとする男の手に反して、女の手は閉ざされ、その心情を映し出しているようです。
ヴァロットンの版画は次第に画面の多くを黒が覆うようになりました。
「木版画ですと黒っていうのは彫らない部分になるので、その木の板をそのままフラットに残すということになるんですけれども」(主任学芸員・杉山菜穂子氏)
「特に室内画では黒い色というのが、単純に”影”とか”闇”を表すだけではなくて、その描かれた人の心理とか孤独であるとか、何か後ろめたさとかいったものを象徴しているように感じられます」(杉山氏)
1899年。結婚を機にヴァロットンは油彩画に打ち込むようになります。
しかし1914年に起こった第一次世界大戦を機に、再び版画へと情熱を注ぎます。
戦争がもたらす悲惨な実情を、白黒の木版画で広く伝えようとしたのです。
爆弾が降り注ぐ戦場の最前線。
こちらにまで爆発音が聞こえてくるかのような、凄まじい表現です。
多くの兵士が塹壕(ざんごう)に身を潜めており、緊迫感が伝わってきます。
雪が舞う夜空の下。
張り巡らされた有刺鉄線には、息絶えた兵士が絡み合っています。
戦争という悲劇を雪のベールが包み込んでいるかのようです。
東京・千代田区の三菱一号館美術館で2023年1月29日まで開かれています。
今回の記事はここまでになります