2017年7月28日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#245 国立西洋美術館「アルチンボルド展」~精巧・不思議!”だまし絵”の傑作が奇跡の集結~】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
今回は記事パート4です。前回のパート3はこちら☚からご覧頂けます。
アルチンボルドはなぜこんな絵を描いた?
パート3まで『四季』の中から《春》《夏》、そして『四大元素』から《大気》と《火》を見てきましたが、そもそもアルチンボルドはなぜこんな絵を描いたのでしょう?
アルチンボルドの故郷であるミラノは”北の玄関口”とも呼ばれていたこともあり、北方から写実的に描く文化も入ってきていました。
具体的には静物画のような、「対象をリアルに描く」という事です。
もう一つはイタリアで活躍したレオナルド・ダ・ヴィンチらが、カリカチュアと呼ばれる人の特徴を冷やかし半分で強調して描くようなデッサンも残していました。
そこに相まって当時は人相学(顔が何に似ているかで性格が分かる)がブームになっていました。
(例えば、”目が大きい人は臆病で怠惰だ、なぜなら牛や魚も目が大きいからだ”など)
おそらくアルチンボルドもミラノにいた頃に、そういったデッサンを見ていたのかもしれません。
《秋》
![](https://masaya-artpress.com/wp-content/uploads/2020/04/Autumn-1.jpg)
《秋(Autumn)》1572年
ジュゼッペ・アルチンボルド
アメリカ、デンヴァー美術館蔵
『四季』のシリーズは春夏秋と季節の経過と共に、人物も年老いていくように描かれているのです。
そういった部分でも、一年の四つの季節という時の流れと共に、人生の4つの段階も同時に表現しています。
四季の移ろう”時間”と人生の経過していく”時間”を重ねているのです。
秋の収穫物によって人の顔が表現されています。
ブドウも見えますし、体はワインの樽をモチーフにしています。
こういった収穫物は「ハプスブルク家の繁栄」を表しているといえます。
耳はキノコで表されています。
ついでに耳毛のような(笑)、何かうじゃうじゃしたものも見えます。
頭頂部にはカタツムリの姿が。
口元は栗で描かれています。
口の空いているところが栗の実で表現されています。
1563年に一番最初に描かれた『四季』シリーズの《秋》は残念ながら消失しており、今日現存している《秋》はこのデンヴァー美術館の作品とルーヴル美術館のものと2枚しかありません。
《秋》ルーヴル美術館蔵
それでは、ここで現存するもう一枚の《秋》を見てみましょう。
![](https://masaya-artpress.com/wp-content/uploads/2020/04/Autumn-Louvre.jpg)
《秋》1573年
ジュゼッペ・アルチンボルド
ルーヴル美術館蔵
こちらの方が画面が明るく、何によって描かれているかが鮮明に分かりますね。
デンヴァー美術館所蔵の《秋》は体のワインの樽の隙間からブドウの実が見えていたのに対して、こちらのルーヴル版にはそれがありません。
《大地》
![](https://masaya-artpress.com/wp-content/uploads/2020/04/earth.jpg)
《大地(Earth)》1566年(?)
ジュゼッペ・アルチンボルド
リヒテンシュタイン侯爵家コレクション
大地は、大地に生きるものとして”動物”がチョイスされています。
単独の動物の絵画として十分に成り立つほど、どれも毛の質感から表情まで見事に描かれています。
首から下のライオンと羊は毛皮になってしまってます。
ここでも《火》同様に胸元の羊という事で「金羊毛騎士団」を意識していると考えられます。
ライオンの毛皮といえば、ギリシア神話の英雄ヘラクレスを思いこさせます。
(ヘラクレスはライオンをキタイロン山で退治し、以降ライオンの毛皮を身に着けて戦うようになります)
英雄ヘラクレスは、ハプスブルク家にもたいへん好まれました。
マクシミリアン2世は植物園を所有していましたが、動物園も持っていました。
そこには世界中から運ばれてきた珍しい動物が数多くいました。
また残念ながら運ばれてくる際に死んでしまった動物の、角や牙まで集められていたといいます。
アルチンボルドは構成する動物の組み合わせも工夫しています。
例えば、頬の所にはゾウです。
ゾウはこの当時たいへん慎み深い動物だと思われていました。
ですので、恥ずかしがると頬が赤くなると言われており、そういう動物をあえて頬の所に持ってきています。
耳はゾウの耳をそのまま使っているのも面白い点です。
アルチンボルドの素描作品
![](https://masaya-artpress.com/wp-content/uploads/2020/04/天文学の寓意.jpg)
《天文学の寓意(Costume drawing for the allegorical figure “Astrology”)
ジュゼッペ・アルチンボルド
フィレンツェ、ウフィツィ美術館 素描版画室
こちらの素描は『ルドルフ2世に献じられた馬上試合の装飾デザイン集』の中の一枚です。
宮廷の人々が祝祭の際に、仮装をするための衣装や小道具の素描が描かれています。
この《天文学の寓意》はその中の一枚です。
平たく言うと”仮装パーティー”、コスプレのデザインといった所でしょうか。
一見ただの素描のようですが、じつはかなり重要な資料なのです。
当時宮廷で行われる結婚式などの祝祭行事はたいへん重要なものでした。
様々な国の王族や貴族が訪れる前で、自分の宮廷の”力”を誇示する必要があったのです。
(今でいうオリンピックの開会式・閉会式に相当すると言っても良いでしょう)
その祝祭行事を企画・演出する仕事は非常に重要だったのです。
当時の宮廷画家は単に絵画を描くという事以外にも、このようにイベントプロデュースのようなことまでマルチに活躍していたのです。
これらの素描はそういった当時の祝祭やイベントの様子を知るためにも大変重要な資料なのです。
(本物の衣装などは残されていないので)
アルチンボルドはその仕事のみならず、宮廷に珍しい動物や植物が来た時にはそのスケッチを描いたりと多忙だったのです。
![](https://masaya-artpress.com/wp-content/themes/cocoon-master/images/b-man.png)
こういうアートディレクターのような仕事もしていたから、
油彩画を描く時間がなかったんですね!
いかがでしたでしょか。
パート4はここまでです。
続くパート5は『四季』と『四大元素』のそれぞれラスト!
《冬》と《水》についてまとめていきます。
こちら☚からご覧いただけます。
コメント
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