2017年7月9日にNHKで放送された「日曜美術館」の【肖像画に秘められた思い~宮廷画家アルチンボルド】の回をまとめました。
今回の記事はパート3になります。
前回のパート2はこちら☚からご覧ください。
番組内容に沿って、+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
『四大元素』に込められたメッセージ
海辺に住むおよそ60種類の動物で描かれたアルチンボルドの連作『四大元素』の中の一枚、《水》。
しかしアルチンボルドの暮らすウィーンの周囲に海はありません。
ではどのようにして彼は《水》を描いたのでしょう。
その背景には彼が仕えたハプスブルク家の絶大な権力がありました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
16世紀、ハプスブルク家の支配はヨーロッパのみならず新大陸にまで及んでいました。
皇帝の元には遠く異国から持ち運ばれた、珍しい動物や植物、標本が持ち込まれたのです。
世界中から珍しいものを収集することができる皇帝の力。
そこに仕えたアルチンボルドも同様に、それらを見る事ができたのです。
アルチンボルドはただ単にそこで珍しいものを描いたわけではありません。
この作品には、”皇帝の権力を内外に知らしめる”という狙いが込められているのです。
つまり、「ハプスブルク家や皇帝が世界を掌握しているんだ」というメッセージ、ポスター的な役割を彼の作品は担っていたのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
『四大元素』と『四季』の連作は合わせて描かれたと考えられています。
世界を構成する『四大元素』と永遠に繰り返される『四季』、その全てを皇帝が支配しているという意味が込められているのです。
この時代、当たり前ですが”メディア”というものはありません。
「ハプスブルク家は凄いんだぞ!権力持ってるんだぞ!」というのは、中々一般の市民や他国に伝えるというのは容易ではなかったと想像できます。
そこで宮廷画家であるアルチンボルドは、ただ単に珍しい動物や植物を描くのではなく、強烈なインパクトを持つ作品を描いたのです。
ただ単に珍しいものを描くよりも、
この方が見た人に強烈なインパクトを与えられますからね!
「世界が自分の手の中にあるんだ」というメッセージを出したい皇帝からのリクエストに、アルチンボルドは絵画というメディアで答える事ができる、たいへん優れた宮廷画家だったのです。
《庭師/野菜》
《庭師/野菜(The Vegetable Gardener)》
ジュゼッペ・アルチンボルド
イタリア、クレモナ市立美術館蔵
この作品は野菜で人の顔を表現した作品、《庭師/野菜》です。
じつはこの作品、絵をクルッと逆さまにすると…
なんと、ボウルに入った野菜になるのです!
ゲストの立川志らくさんはこの絵の面白いポイントは、庭師の頬になっている”タマネギ”だといいます
”タマネギ”というと普通私たちのイメージだと、真横から見たシルエット(ちびまる子ちゃんの永沢君の頭の形(笑))になりますが、アルチンボルドはここで下からのアングルでタマネギを使っているのです。
確かにタマネギを描く時は、絶対と言っていい程、真横からの形になりますよね。
《コック/肉》
《コック/肉(The Cook)》
ジュゼッペ・アルチンボルド
ストックホルム国立美術館蔵
もう一枚、上下逆さまにして楽しむ作品をご紹介しましょう。
今まさに料理が運ばれてきて、フタが外された瞬間を描いたこちらの作品。
これも逆さにすると…
こちらを横目で見る人の顔になっています。
子豚の丸焼きがおでこ、人物の目は鳥の顔部で表わされています。
立川志らくさんは、アルチンボルドは見てる人を面白がらせようとしてこういった絵を描いたのでは?と推測します。
晩年のアルチンボルド
およそ25年に渡りハプスブルク家の宮廷画家を務めたアルチンボルド。
晩年は穏やかに過ごしたいという思いから、61歳で生まれ故郷のミラノに戻ります。
ミラノに戻ってから描いたとされる自画像が近年発見されています。
《紙の自画像(紙の男)(Self-portrait on Paper (“The Man of Papers”))》1587年
ジュゼッペ・アルチンボルド
イタリ・ジェノヴァ、ストラーダ・ヌオーヴァ美術館ロッソ宮 素描版画室
『四季』や『四大元素』で、それぞれ関連するモチーフで作品を描いたアルチンボルド。
この自画像でもその精神が受け継がれ、画家に関係の深い”紙”を用いて全体が構成されています。
ただ自画像を描くのではなく、このようにお洒落に決めてくる所がカッコいいですよね!
更にこの作品でもアルチンボルドらしい、遊び心を加えています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
眉間には「61」と読み取れる数字が見えます。
彼はここにさりげなく、作品を描いた時の自身の年齢を忍ばせたのです。
《四季(Four Seasons in One Head)》1590年頃
ジュゼッペ・アルチンボルド
ワシントン、ナショナル・ギャラリー蔵
こちらの《四季》はアルチンボルドが亡くなるおよそ3年前に描かれた作品です。
「ザ・集大成!」といった感じですね。
一説には晩年の自画像とも言われています。
連作『四季』の中に描かれたモチーフが一堂に会して、人物が構成されています。
実はアルチンボルドは宮廷画家時代にその功績が認められ、貴族の称号を与えられています。
画家としてかなり大きな成果を出しましたが、そのことは故郷ミラノにはあまり伝わっていなかったといいます。
そこでアルチンボルドはミラノの社交界に向かって自分をアピールする狙いで、これら自画像を描いたのだと考えられます。
最後まで自身の画風を貫き通したアルチンボルドは、67歳でその生涯を閉じるのです。
アルチンボルドが作品に込めたもの
大阪大学准教授の桑木野幸司さんがアルチンボルドの作品を見て一番に感じる事は、”世界の多様性”だと言います。
多様なもので構成された彼の作品は、どれ一つとして調和を乱しているものがありません。
これを人間社会に置き換えるならば、私たちのいる社会も多様な人やモノで作られています。
彼の作品には「多様なものの集合であっても、争うのではなく調和することができる」といった平和的なメッセージも込められているのかもしれません。
今回の記事はここまでになります。
最後までご覧頂きありがとうございました。
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