2020年10月3日にTOKYO MXで放送された「アート・ステージ~画家たちの美の饗宴~」の【ハドソン・リバー派 アメリカ絵画最初の画派】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それでけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
イントロダクション
今回はアメリカ最初の画派と言われる「ハドソン・リバー派」を取り上げます。
ハドソン・リバー派は19世紀中頃、アメリカの画家たちによって結成されました。
この画派の作品の特徴は、アメリカならではの雄大な風景が描かれている点です。
画家トマス・コール
ハドソン・リバー派で最も重要な画家であり、創始者と言われるのがトマス・コール(Thomas Cole、1801-1848)です。
コールはアメリカ独立宣言が発布された25年後、1801年にイギリスで生まれます。
そして17歳の時に家族と共にアメリカのオハイオ州に移住します。
彼の画家としてのキャリアのスタートは肖像画家でした。
その後20代半ばで目にしたハドソン川流域の自然に心を奪われて、風景画にのめり込むようになっていきます。
1829年には旅行でヨーロッパに滞在、様々な風景を求めてイギリスやイタリアを旅します。
そこでジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーやクロード・ロランの作品と出会い、影響を受けます。
ヨーロッパで歴史や伝統あるものに触れる一方で、この旅はアメリカにしかないものをコールに気づかせます。
それは”未開の地”です。
「ヨーロッパの古代遺跡の代わりに、アメリカには未知の荒野が存在する」
コールはこんな言葉を残しています。
そしてその旅から帰国したあとに描いたのが、彼の代表作である連作『帝国の推移』です。
連作『帝国の推移』
画像出展元:テレビ番組「アートステージ」より
彼の代表作が全5作から成る連作『帝国の推移』です。
この連作では人類の文明の始まりから、その衰退までが描かれています。
それでは全5枚を順番に見てみましょう。
《未開の状態》
『帝国の推移』より《未開の状態》1833-36年頃
トマス・コール
ニューヨーク歴史協会蔵
1枚目の《未開の状態》では人類の文明の夜明けが描かれています。
画面右側には暗雲が立ち込めていますが、反対側からは太陽の光が射しこんでいます。
未開の状態が終わり、文明や人類がこれから発展するのを予感させるようです。
手つかず自然が残る中で、大自然の中でたくましく生きる人の姿が描かれています。
《牧歌的な状態》
『帝国の推移』より《牧歌的な状態》1534年頃
トマス・コール
ニューヨーク歴史協会蔵
続いて2枚目の《牧歌的な状態》です。
手つかずだった自然は整えられ、人々が豊かに暮らす、穏やかな情景が広がります。
羊を飼いならす人、木陰でダンスをする人たちが描かれ、まさに「牧歌的な状態」そのものです。
画面奥には神殿も建てられて、文明の芽生えを予感させるようです。
その予感通り、この後人類の発展は頂点を迎えます。
《帝国の完成》
『帝国の推移』より《帝国の完成》1835-1836年
トマス・コール
ニューヨーク歴史協会蔵
一気に栄えましたね~
古代ギリシャ文明やローマ文明を彷彿とさせる大理石でできた大建築が並ぶ、壮大な風景が広がります。
人の数もこれまでとは比べものにならないほど多く登場しています。
橋の上では何やら行進が行われ、赤いマントをまとった王様らしき人物の姿も見えます。
ここでは人類の発展とともに、身分の違いが生まれた事も表されているのです。
手前に描かれている噴水からは天へとほとばしる水が見えます。
引力に逆らう水が、文明の勝利を象徴しています。
しかし、完成した帝国の栄華は長くは続きません。
『帝国の推移』より《帝国の衰退》1836年
トマス・コール
ニューヨーク歴史協会蔵
《帝国の完成》からは打って変わって不穏な空気が立ち込めます。
描かれているのは、船で攻めてくる軍隊と、逃げ惑う民衆の姿です。
今まさに海に落ちてしまいそうな女性、既に落ちてしまった人、這い上がろうと必死に柱にしがみつく人など。
中央の橋は押しかけた人々により、今まさに崩れようとしています。
凄惨な光景に目を塞ぎたくなってしまうほどです。
この地の象徴であったと思われる巨大な兵士の像は首を取られ、地に落ちてしまっています。
燃えさかる炎は人々が長年をかけて築き上げた文明を、一瞬にして灰にしてしまいます。
1作目の《未開の状態》と山の位置や暗い空の構図が同じようになっています。
しかしこちらの《帝国の衰退》では、希望の光となる陽の光は差し込んできません。
『帝国の推移』より《荒廃》1836年
トマス・コール
ニューヨーク歴史協会蔵
そして連作のラスト《荒廃》では、ついに文明は滅亡してしまいます。
かつてはあれほど栄えた文明は消え、人の姿もついになくなってしまいました。
画面には再び荒野へと戻ってしまった風景が広がります。
そびえるように残された神殿の柱が、かつての栄華を物語っているようです。
トマス・コールがこの作品を描いた当時、アメリカはまさに文明への道を突き進んでいた時代でした。
「盲目的な発展は人間に幸福をもたらすのか?」
そんな警鐘をこの作品は鳴らしていたのかもしれません。
ハドソン・リバー派の由来
文明と自然の対峙させた連作『帝国の推移』。
独創的な風景画を描いたコールは、画家としての転機となったハドソン川流域にアトリエを構えていました。
そこに彼を慕って若い画家たちが集まってくるようになります。
そうしてハドソン・リバー派が作られていくのです。
今回の記事はここまでです。
続くパート2では、そのトマス・コールの弟子で同じくハドソン・リバー派の画家のフレデリック・エドウィン・チャーチ。
そしてハドソン・リバー派以前のアメリカ絵画についてまとめていきます。
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[…] 今回の記事はパート2になります。 前回の記事はこちら☚からご覧いただけます。 […]