2025年11月2日にNHKにて放送された「日曜美術館」の【天平の美 〜第77回正倉院展〜】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
今回の記事はパート2になります。動物考古学者 山﨑健さん
北倉10『牙笏』
1300年に渡って受け継がれてきた正倉院宝物ですが、今なお新しい発見があるといいます。
ここからは近年の調査で新たな発見があった宝物について見ていきます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
『牙笏(げしゃく)』は象牙でできた笏です。
笏は貴族や役人などが正装する際に手にしたものです。
当時は身分によって笏に使える素材が決まっており、なかでも象牙製のものは特に身分の高い人しか使うことが許されませんでした。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
『牙笏』は天武天皇から聖武天皇を含む6代の天皇に渡って継承された戸棚、『赤漆文欟木御厨子(せきしつぶんかんぼくのおんずし)』に収められており、格別の由緒を誇ります。
今回、最新の調査で『牙笏』がどのようにして象牙から切り出されたのかがわかりました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
象牙は切った部分によって模様の見え方が違います
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
縦に切った場合は山型の模様が見えるといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
同じ山型の模様が『牙笏』でも確認できます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
このことから『牙笏』は象牙の成長方向に切り出されており、中でも山型の模様が細く現れる表面に近い部分が使われたことが分かりました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
また象牙を別の方向に切ると、網目状の模様が見えます。
これは象牙が伸びていく過程で見られる特徴で、現代でも象牙製品を見分ける際にこの模様の有無を確かめます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
パート1の記事で取り上げた『双六頭(すごろくとう)』でも、この象牙の模様を確認することができます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
複数のサイコロで、同じ数字の面で網目状の模様が見られることが分かりました。
(上の画像だと3の面)
このことからただ象牙であればいいということではなく、何かの法則に則り意図的にしていたことが考えられます。
宝物の模様から、その宝物に使われた素材が分かるのです。
中倉87『魚骨笏』
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらの『魚骨笏(ぎょこつのしゃく)』。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
表面には無数の小さな穴が空いています。
これは骨が素材のものに見られる特徴で、牙や角では見られません。
特に海に住む哺乳類は、浮力を利用するため骨を軽くする必要があり、穴の面積が大きくなる特徴があります。
この宝物は大型のクジラの骨であることが分かっています。
南倉174『象牙』
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらの宝物は『象牙』という、見たままの名称が付けられています。
これまではその名の通り、象の牙と考えられてきました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
しかし今回の調査で、クジラの肋骨であることが分かりました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
断面には『魚骨笏』と同じく、小さな穴が空いています。
これは骨にのみ見られる特徴で、象の牙ではあり得ません。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
よく見るとこの断面には何かが塗られた形跡が見られます。
長い時間の中で中央部の塗装が落ちて、それまで見えなかった骨の特徴である穴が見えました。
これにより、クジラの骨だと分かりました。
象牙に似せるために何かを塗った可能性も考えられています。
このように名称と実際の素材が異なっていた宝物が他にもあります。
南倉174『馴鹿角』
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらは『馴鹿角(となかいのつの)』と呼ばれる宝物です。
長さ80センチ、重さ2.4キロの巨大な角です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
その名称から、これまでトナカイの角だと考えられてきました。
しかし、今回行われた調査で別の動物の角であることが分かりました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
それがこちらのシフゾウというシカ科の動物です。
シフゾウは中国が原産といわれています。
角はオスにだけ生え、一年で生え変わるといいます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
シフゾウの角は前後に大きく枝分かれし、さらにそこから前側がまた枝分かれします。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
正倉院宝物の『馴鹿角』にも同じ特徴が見られることから、シフゾウの角だと断定されました。
シフゾウは中国の一部地域にのみ住んでおり、日本に入ってきたのは明治21年のことで、現在国内で飼育されているのはわずか3頭のみです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
平安時代、日本では入手不可能だったシフゾウの角。
その珍しさから宝物として今に残ったのかもしれません。
今回の記事はここまでになります。






















