2020年4月2日にNHK・BSプレミアムで放送された「ダークサイドミステリー」の【ナチスを騙した男 20世紀最大の贋作事件】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それでけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
こちらの記事はパート2で、パート1からの続きになります。
前回の記事はこちら☚からご覧頂けます。
美術史家ブレディウスによる再鑑定
ハルス研究の第一人者である美術史家のホフステーデ・デ・フロートによって、一度は「本物」のお墨付きを得たメーヘレン。
しかし、その後別の専門家が再鑑定を行いました。
その専門家の名はアブラハム・ブレディウス。
当時オランダ美術界の最高権威とされた人物です。
フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》を所蔵するマウリッツハイス美術館の館長を20年務め、17世紀のオランダ絵画研究の第一人者だった美術史家です。
彼が再鑑定に用いた方法は、「アルコールテスト」でした。
アルコールを含ませた脱脂綿で絵の表面をなでるのです。
通常描かれて50年以上経過したものであれば、そこで脱脂綿には何も付きません。
絵具はキャンバスに塗られて約50年経つと、顔料に混ぜたオイルが蒸発し、絵具は完全に固まるのです。
メーヘレンの描いたものはつい最近のものです。
ですので、この「アルコールテスト」によって絵具が付着してしまいます。
これにより、50年以内に描かれたものという事で、ハルスの作ではないニセモノだということがばれてしまいます。
その後ブレディウスの指摘により更なる科学鑑定が行われます。
その鑑定の中で、絵具の中から17世紀には存在しなかった顔料が見つかります。
絵を買い取ったオークション会社は、最初の鑑定人ホフステーデと友人のテオを告訴します。
一方テオに頼まれて絵を修復しただけのメーヘレンも、贋作事件の片棒を担いだとして名前が世に出てしまいます。
24歳の時に絵画コンクールで最優秀賞を受賞。
絶賛された腕前も数年後にはけなされ、修復師として見事な修復をすれば今度は詐欺師扱い。
メーヘレンはここで美術界への復讐を誓うのです。
これが彼の贋作制作の始まりでした。
贋作画家としての始まり
画家としても評価をされず、修復師としても上手くいかないメーヘレン。
それは全て美術界のあやふやな価値観によるものだと彼は考えます。
復讐に燃えるメーヘレンがその相手に選んだのは、自分をニセモノに追い込んだ美術界の最高権威のアブラハム・ブレディウスでした。
メーヘレンはブレディウスにリベンジすべく、彼の専門分野に乗り込みます。
ブレディウスの専門分野、それが・・・
「フェルメール」だったのです。
現在フェルメールの真作は37作品とされています。
(専門家によって意見が様々あります)
特に初期の作品である《マルタとマリアの家のキリスト》と《ディアナとニンフたち》は、長らく「作者不明」とされてきましたが、ブレディウスの鑑定によりフェルメールの真作であると認定されたのです。
《マルタとマリアの家のキリスト》1654-1655年
ヨハネス・フェルメール
スコットランド・ナショナル・ギャラリー
《ディアナとニンフたち》1653-1654年
ヨハネス・フェルメール
ハーグ、マウリッツハイス美術館蔵
つまりブレディウスの目を欺き、「フェルメール作品」と認めさせれば、ブレディウスにも勝ち、自分の作品が「オランダの至宝」として美術史に刻まれると考えたのです。
それは「300年前の絵を新たに創り出す」という、いわば不可能への挑戦でした。
不可能への挑戦①『絵具』
ハルスの作品の時には、”アルコールテスト”によりニセモノだと見破られてしまいました。
当然今回もここを突破しなければ、「贋作」だというのはバレてしまいます。
つまりアルコールにつけた脱脂綿で絵具の表面をなでても、なにも付かないようにしなければならなかったのです。
そこでメーヘレンが取った方法は、顔料に液体プラスチックを混ぜるというものでした。
その絵具で絵を描き、完成後にオーブンで1時間加熱します。
そうすることで絵具が岩のように硬くなるのです。
これにより”アルコールテスト”の突破は可能となりました。
不可能への挑戦②『17世紀のキャンバス』
もう一つメーヘレンがこだわったもの。
それは300年前のキャンバスでした。
しかし、300年前の未使用のキャンバスなど残っているはずはありません。
そこでメーヘレンは17世紀に描かれた古い絵画を購入し、元の絵を丁寧に剥がしてその上から新しい絵を描いたのです。
なぜそこまで手間を掛けたのでしょう。
じつは元々の絵の上に別の作品を描いても、X線検査の際に見破られてしまうのです。
この辺はきっと修復師をしていた頃の経験が活かされたのでしょうね!
メーヘレンはそれ以外の箇所にも気を配りました。
300年前の絵画は、今では表面に無数のひび割れが見られるのがほとんどです。
彼はそのひび割れまでも再現しようとしたのです。
画像出展元:テレビ番組「ダークサイドミステリー」より
岩のように硬くなった絵の表面を自ら折り曲げひび割れをつくり、そのヒビに黒いインクを刷り込んだのです。
こうすることで長い年月を経て、ヒビの中に汚れが溜まっているのを表現したのです。
《エマオの食事》1937年
その贋作制作には5年の歳月を要しました。
そして1937年、メーヘレン47歳の時にその絵は完成します。
タイトルは《エマオの食事》。
復活したキリストがエマオの村人たちと食事を取ったという聖書の一場面を描いた作品です。
果たしてこの作品はブレディウスの目を欺くことができたのでしょうか?
気になる所で(笑)パート2は一旦ここまでです。
この続きはパート3で!こちら☚からご覧頂けます。
コメント
[…] パート1は一旦ここまでです。 パート2へと続きます。こちら☚からご覧頂けます。 […]
[…] こちらの記事はパート3で、パート2からの続きになります。 前回の記事はこちら☚からご覧頂けます。 […]