2021年4月27日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#377 世界を魅了した天才絵師・渡辺省亭 知られざる全貌 〜ドガも驚嘆!鮮やかな花鳥画から、国宝・迎賓館の七宝額原画まで〜】の回をまとめました。
今回の記事はパート4になります。
前回のパート3はこちら☚からご覧いただけます。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
《双鶏若松梅花遊鯉図屏風》
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
こちらは省亭作品では珍しい、屏風絵になります。
省亭は存命中は売れっ子の画家でしたが、その注文主の多くは、大富豪とかではなく、下町の旦那衆などでした。
ですので、手掛けた作品も床の間に掛けられるような掛け軸などが主でした。
豪邸でもないと屏風は置けませんしね。
そんな中描かれたこの屏風は、金もふんだんに使われた、力の入った作品です。
「もしかすると、政治家や歌舞伎役者からの注文だったかもしれない」と山下先生は言います。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
描かれているのは、右隻に鶏と若松、左隻に鯉と梅と、すべておめでたいモチーフです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
古代中国の故事で、「滝を登りきった鯉は、天まで昇って龍になる」というものがあります。
そこからこの鯉は「立身出世(社会に出て、立派な地位・身分を得ること)」の意味が込められていると考えられます。
鯉の描き方は、江戸時代後期に活躍した円山応挙のスタイルを踏襲しているといいます。
応挙は写生に力を入れた、草分け的存在です。
省亭は過去の絵師をしっかりと学んだ上で、そこに自分のスタイルを落とし込んでいるのです。
《雪中鴛鴦之図》
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
作品の読み方は「せっちゅうえんおうのず」です。
じつはこの絵には元となった作品があります。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
それがこちら、伊藤若冲の『動植綵絵』。
その中の『雪中鴛鴦図(せっちゅうえんおうず)』です。
省亭はこの絵を基にして《雪中鴛鴦之図》を描いたと考えられます。
ちなみにサイズもほぼ同じ大きさだといいます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
構図やモチーフは全体的に似ていますが、所々省亭は自分流に変えています。
若冲の方(右側)は、雄鶏と雌鶏はそれぞれ陸と川で別々なのに対し、省亭の方は二羽が寄り添うように描かれています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
また、枝にとまる鳥の種類も変えています。
「もちろん若冲の絵を見て省亭は感心したと思う。でも、『鳥を描かせたら自分の方が上手いぞ』と省亭は思っただろう」(山下氏)
若冲は今でこそよく知られた存在ですが、現在のような知名度になったのは実はごくごく最近の事です。
省亭の頃に若冲に注目している人はそうはいませんでした。
しかし省亭は若冲を知っていた。すごい技量を持った者同士、どこか通じ合うものがあったのかもしれません。
この《雪中鴛鴦之図》は、それを示す非常に重要な作品といえます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
デザイン性を重視したのが若冲で、鳥の立体感に重きを置いたのが省亭といえるでしょう。
両作品は良く似ているようで、その性格は異なっているのです。
《群雀之図》
じつは今回の展覧会、もう一つ「若冲の作品が元になっている(意識している)のでは?」という作品が展示されています。
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画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
それがこちらの《群雀之図(ぐんじゃくのず)》という作品です。その名の通り、スズメの群れを描いたものです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
こちらも若冲の『動植綵絵』に元になったであろう作品があります。
この作品では、画面上部のスズメがすべて同じ形で描かれています。
写実性よりも、デザインのように描いているのが分かります。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
しかし省亭の方は一羽一羽、違ったポーズでリアルに描かれています。
もの凄い観察眼で、スズメの動きを見事に捉えています。
「鳥の生態を描かせたら、自分の方が若冲よりも上手いぞ!」そんな省亭のプライドが見えるようです。
背景に何も描いていない点も、「スズメだけで勝負してやろう」という気概を感じます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
しかしながら、「飛んでいるスズメをすべて同じ形で描く」という、若冲のこの発想も凄いものです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
両者は非常によく似ているようで、表現の質がまったく異なっているのです。
《群鳩浴水盤ノ図》
続いての作品は、今回の展覧会では残念ながら現物を展示する事ができなかったため、パネルでの展示となった作品です。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
パネルで展示されている作品は何点かありますが、その中でも絶対に触れておかなければいけない作品がこちらになります。
こちらが明治11年のパリ万国博覧会に出品した作品になります。
省亭はこの作品で、銅牌(銅メダル)を受賞しています。
全体的に茶色っぽく見づらい感じがしますが、描かれているのは浅草・浅草寺の境内の情景です。
そこにある天水桶と呼ばれる防火用の雨水をためておく桶の上に、鳩が集まっている様子を描いています。
この天水桶は今でも浅草寺の境内の中にあるといいます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
さきほどの《群雀之図》と同じで、鳥が実際に群れている姿を描いていますが、これを描くのは非常に難しいといいます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ジュゼッペ・デ・ニッティスというイタリア人画家が、この《群鳩浴水盤ノ図》の模写を試みましたが上手くできなかった、というエピソードが残されています。
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