2021年4月6日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#375 東京国立近代美術館「あやしい絵」展~神秘・退廃・グロテスク…蕭白から松園まで、名画で辿る”あやしい”の系譜~】の回をまとめました。
今回の記事はパート5になります。
前回のパート4はこちら☚からご覧いただけます。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
《道行》北野恒富
《道行》1913(大正2)年
北野恒富
福富太郎コレクション資料室
*既に展示は終了しています
こちらの作品は大阪画壇で活躍した日本画家、北野恒富(1880-1947)の作品です。
”大阪の美人画”といえば、北野恒富といわれるほどの人気があり、東京画壇の鏑木清方、大阪画壇の北野恒富といわれました。
1913(大正2)年に描かれた、こちらの《道行(みちゆき)》という作品は、近松門左衛門の「心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)」を基にした作品です。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
紙屋治兵衛は妻子ある身でありながら、遊女の小春と恋に落ちて、どうやっても離れられない関係になってしまい、最終的には心中する、というお話です。
この《道行》では、まさにこれから心中する二人の姿が描かれています。
『道行』というのは、歌舞伎や人形浄瑠璃の「道行物」が由来で、男女が心中へ向かう感情を舞った演目のことです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
女性の方は男性の肩にもたれかかり、悲し気に天を仰いでいます。
一方の男性はじっと横を見つめ、死への決意を伺わせます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
視線の交わりのない二人ですが、手元に目をやると、その手は固く繋がれています。二人の愛の深さが伝わってくるようです。
これから心中に向かう二人の決意を、悲しくも美しく描いた傑作です。
すでにどこか生気を感じられない二人は、もしかするとすでにこの世の者ではないのかもしれません。
画面左側(左隻)のカラスがはっきりと描かれているのに対して、二人のいる右側(右隻)のカラスは薄く描かれているのも、何か意味深な印象を与えます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
北野恒富は後に上品で華やかな美人画を手掛けますが、大正期はこの《道行》のような、妖艶で退廃的な作品を描きました。
その作品を見た当時の京都画壇の画家からは「画壇の悪魔派」と呼ばれていました。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
大正時代には「人間の内面を掘り下げよう」という目的から、「大阪茶話会(おおさかさわかい)」という研究会を立ち上げ、画壇のけん引役としても活躍しました。
《焰》上村松園
《焰》1918(大正7)年
上村松園
東京国立博物館蔵
*既に展示は終了しています
こちらは明治中期から昭和の戦時中まで活躍した女性画家、上村松園の《焰(ほのお)》という作品です。
自らの髪を嚙みしめながら激しい嫉妬に身を焦がす女性の姿が描かれています。
モデルは「源氏物語」に登場する六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)です。
嫉妬の末に生き霊となった女の情念を上村松園は妖しくも、なまめかしい姿で描き出しました。
着物の柄は蜘蛛の巣になっています。
何かを”捕える”という事の暗示でしょうか…
上村松園はこの嫉妬の表情を、能面を参考にしたといわれています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
能面の白目の部分には金色が使われることがありますが、この《焔》でも、松園は絹の裏から金を描き、表から見た時うっすら金が見えるようにしました。
曾我蕭白の《美人図》との比較
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
この作品はパート1でご紹介した、曾我蕭白の《美人図》のポーズとの共通が見られます。
2つの作品には約200年の間がありますが、それでも受け継がれているものがあるということです。
「物を噛む」というこの仕草は、共に女性の強い嫉妬の念を表しているのです。
しかし共通する部分以外にも、200年で変化した部分があるといいます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
曾我蕭白の《美人図》の場合は、表情というよりも、絵の中のモチーフで女性の恨みや嫉妬の感情を表していました。
一方、上村松園の作品では、もう人物の表情を見ただけで、この女性がどういう感情なのか読み取ることができるようになっているのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
絵の中のモチーフで感情を表す表現から、リアリズムの表現へと200年の間に変化しているのが分かります。
《焔》にまつわるエピソード
上村松園は美人画で高い評価を得ていましたが、上手すぎる美人画故に、「外見だけが美しい」といわれ、この作品を描く前までスランプに陥っていました。
その苦しみ中、描き切ったのがこの《焔》でした。上村は自身の葛藤をこの《焔》に全てぶつけ、描き切ることでスランプを脱したのです。
山田五郎さんは「この作品は重要文化財になってもいい」といいます。
見た人に忘れられないインパクトを残す、上村松園の美人画の傑作といえるでしょう。
いかがでしたでしょうか。
『あやしい絵展』のまとめ記事は以上になります。
最後までご覧頂きありがとうございました。
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