2021年4月6日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#375 東京国立近代美術館「あやしい絵」展~神秘・退廃・グロテスク…蕭白から松園まで、名画で辿る”あやしい”の系譜~】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
イントロダクション:「あやしい絵」展
今回は東京国立近代美術館で2021年5月21日㈰まで開催の『あやしい絵展』についてまとめていきます。
展覧会名の”あやしい”は平仮名になっています。
「あやしい」という言葉は、「妖しい」「怪しい」「奇しい」という風に様々な漢字があり、またそれぞれの意味も変わってきます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
この展覧会では、神秘的でミステリアスな作品から、色っぽい女性の作品まで、様々な作品が登場します。
江戸時代から昭和初期まで、時代とジャンル超えた約160点のあやしい絵が堪能できる展覧会です。
プロローグ:《白瀧姫》安本亀八
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
最初の展示室に入ると、まず目に入るのがこちらの《白瀧姫(しらたきひめ)》という人形作品です。
今回の『あやしい絵展』唯一の立体作品となっています。
まさに来場者をお出迎えする作品です。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
幕末から明治にかけて「生人形(いきにんぎょう)」というものが流行します。
見世物小屋などに置かれて、劇や舞台の再現(例えば忠臣蔵など)がされていました。
マダム・タッソーみたいな感じですね!
その生人形師の初代安本亀八が二代目・三代目と共作したといわれるのがこの《白瀧姫》です。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
生人形は開国以降、海外でも人気が高まり、安本亀八の《相撲生人形》はアメリカ人収集家の目に留まり、そのまま渡米します。
その後はデトロイト美術研究所に100年近く収蔵されていました。
(2005年に安本亀八の生まれ故郷である熊本市が買い戻しました)
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
全体的にかなりリアルに作られています。
直に見える部分だけでなく、到底見えない部分も精巧に作られているのだそう。
例えば、口元の部分。うっすら開いた口元からは歯と下が確認できますが、じつは奥歯までしっかり作られているそうです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
作品のタイトルにもなっている《白瀧姫》についても触れておきましょう。
舞台は群馬県の桐生市。
ここは奈良時代から続く織物の町として知られていますが、この地に織物が伝わったのは、京の宮中からこの地に嫁いできた白瀧姫がもたらしたという伝説があるのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
こちらの安本亀八の《白瀧姫》は、1893年にアメリカのシカゴで開催された博覧会、そこの織物の展示館の”お出迎え役”として制作されたといわれています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
その後、桐生の織物会社がこの《白瀧姫》の生人形を買い取ります。
敷地内に織姫神社と呼ばれる神社を建てて、そこに《白瀧姫》を奉納していました。
しかしその後会社が土地を手放し、神社も人形もそのままにされ、次第に忘れ去られていきます。
平成に入り、その跡地を管理していた地元の人たちが、神社の修理をしようとした際に、中から白い布にくるまったこの人形が見つかったのです。
現在は桐生市の桐生歴史文化資料館で大切に保存されています。
《美人図》曾我蕭白
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
こちらは奇想の画家でお馴染み、曾我蕭白(そがしょうはく)の作品です。
今回の『あやしい絵展』の出品作品の中でも、最も古く、約300年前の作品になります。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
蕭白というと、水墨画タッチの龍の絵をイメージされる方もいるかもしれませんが、じつは美人画も描いていたのです。
美人画といっても、なんだか普通の美人画ではない感じがしますが…
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
何やらただならぬ雰囲気を感じさせる作品です。
強い恨みや呪い、怨念が感じられます…
しかし表情そのものは、そこまで強い表情をしているわけではありません。
女性の仕草から、ただならぬ様子であることが伝わってくるのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
女性が口にくわえているのは、びりびりに破かれた手紙です。
手紙を破いて、「キー」となっている感じですね。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
着物もはだけて、履物もなく、素足があらわになっています。
足の爪が黒ずんでいるのも、どこか不気味さが漂います。
この作品は女性の佇まいや仕草もそうですが、描かれているモチーフ(着物の柄や背景)にも意味がちゃんと込められているといいます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
着物の柄をよく見ると、中国風の山水模様が描かれています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
さらに女性の背景には、墨で蘭の花が描かれています。
この”蘭の花”というのは、古代中国・楚の時代の政治家であり詩人の「屈原(くつげん)」という人物が、詩の中で君子の事を表した花です。
それが転じて、屈原自身を象徴する花になっています。
《屈原》1898年
横山大観
厳島神社蔵
*「あやしい絵展」の出展作品ではありません。
横山大観がその屈原を描いているのは、よく知られています。
屈原は王から信頼され重用されますが、周囲からの嫉妬にあい、失脚してしまいます。
左遷させられた先で「こんなに国に尽くしたのに」という思いから、自ら命を絶ってしまいます。
ここから「屈原=恨みを抱いて自殺した人」のイメージになるのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
この作品が描かれた当時は、中国文化の影響が強い時代でした。
屈原を彷彿とさせる背景を見た時に、当時の人は「きっとこの女性は何かしら裏切られて、人を恨んでいる」と分かったのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
表情自体が歪んでいないのに、「怨念」や「恨み」を表しているのが逆に怖く感じるこの作品。
ここから時代が進むにつれて、「怨念」や「恨み」の表現がどのように変わっていくのかも、この展覧会の楽しみ方の一つです。
今回の記事は一旦ここまでになります。
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