2019年5月7日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#307 三菱一号館美術館「ラファエル前派の軌跡」展~ヴィクトリア朝のアート革命!時を超える美しき英国芸術~】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
解説/法政大学教授・荒川裕子氏
イントロダクション:「ラファエル前派の軌跡」展
今回は2019年に東京の三菱一号館美術館で開催された『ラスキン生誕200年記念 ラファエル前派の軌跡展』についてまとめていきます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
そもそも「ラファエル前派」とは何か?
「ラファエル」とは、ルネサンスの大画家であるラファエロを英語読みしたもので、もちろんラファエロの事です。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ここでのラファエロは、イコール古典主義のことを指します。
19世紀中頃までの西洋絵画のお手本はラファエロであり、アカデミズムといえばラファエロでした。
ラファエル前派は、「そのラファエロよりも前に帰ろう、アカデミズムに対抗しよう」とした若い画家たちの芸術運動でした。
山田五郎さん曰く「要するに、古典主義この野郎!アカデミーこの野郎!」みたいな感じだと言います。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ラファエル前派の中心メンバーとなったのが、《オフィーリア》で知られるジョン・エヴァレット・ミレイ、詩人としても活躍したダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、まじめで技巧派のウィリアム・ホルマン・ハントでした。
彼らは同じイギリスの美術学校に通う学生であり、彼らのいわば学生運動が「ラファエル前派」だったのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
そしてこの運動に大きな影響を与えた人物がいます。
ジョン・ラスキン(1819~1900)です。
今回の展覧会もこのラスキンの”生誕200年”を記念して開催されたものです。
ジョン・ラスキンは美術批評家であり、社会思想家でもあり、ラファエル前派にとっては庇護者、”ボス的”な存在だったといいます。
彼らの金銭面でのサポートはもちろん、作品の注文のみならず、旅行にまで連れていき画題を提供するなど、全面的なバックアップをしました。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ラスキンは社会思想家として、「暮らしの中にもっと芸術を取り入れていこう」という考えを持っていました。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
日本でも人気のあるウィリアム・モリスも、その源流はラスキンの思想があるといいます。
ラスキンがいなければ、モリスもいなかったといえるほど重要な人物なのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
その影響はイギリスのみならず、日本の民藝運動や詩人の宮沢賢治にも影響を与えました。
「生活の中に美や喜びを取り込む」という発想は、ラスキンから来ているものなのです。
ものすごく大きな影響のある人物だったのですね。
ラスキンと日本のつながり
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ジョン・ラスキンは社会思想家であり、批評家ですが、絵も描く事ができました。
結構うまいですね!
ラスキン本人も「ちゃんとした批評家なら、ある程度描けないとだめだ」と言っていたそうです。
「描けるから、描き手の事が分かる」と考えていました。
この《ラ・フォリの滝》で描かれているのは、フランス・アルプスのシャモニーという町です。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
この時代は、産業革命によって石炭が必要になり、その石炭はどこに埋まっているのか?という事から、地質学が発達していきました。
その地質学ブームの中、今度は”恐竜の化石”が発見されるようになります。
じつはこれが「一番困った事」だったのです。
要するに「聖書に書かれていないものが出てきてしまった!どうしよう!」となったのです。
”神が天地を創造した”というのが、科学的にひっくり返ってしまう事になるのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
同じ頃、ダーウィンも「進化論」を発表しています。
それにより、ますます「人類の祖先はアダムとイヴじゃなかったのか」という風になっていくのです。
逆にまだそんな事を言っている時代だったのですね!
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ラスキンはそんな時代に、このような自然の風景を描きました。
当時の西洋絵画の伝統として、”自然はあまり良い物ではない”というのがありました。
自然よりも、人間が作ったもの(人工物)の方が優れているという考え方だったのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
その自然を「ありのままに描いていこう」と考えたのが、ラスキンだったのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ラスキンの時代はこういった水彩画がブームになっており、ピアノなどと並ぶ人気の習い事でした。
今でも日本の小学校で水彩絵具で絵を描きますが、じつはこれもイギリス、ひいてはラスキンから来ているのです。
油絵は既にイタリアやフランスで長い歴史があったので、イギリスとしては「水彩画ならまだ勝てる」という思いがありました。
そういった背景もあり、イギリスで水彩画が盛んに描かれるようになっていきます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
明治時代以降、イギリスに留学した画家たちが水彩画を日本に持ち帰り、それがブームとなり、図画教育にまでなったのです。
色んな所にラスキンの影響があるのですね!
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
「自然をそのまま描く」という考え方は、今でこそ当たり前のように感じますが、じつは当時はそうではありませんでした。
西洋絵画に描かれる風景の多くは、実際のものではなく、空想の風景がほとんどでした。
それに対して、ラスキンは実際の風景を描いていったのです。
中世の手仕事
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
もう一つのラスキンの重要な仕事が、”中世の手仕事を評価した”ということです。
こちらの作品、一見すると写真ように見えますが、じつは絵なのです。
描かれているモチーフは、北フランスにあるルーアン大聖堂、その扉のレリーフをどアップにしたものです。
しかし何故扉のレリーフだけ、ピックアップしたのでしょう?
普通建築の一部をこのように拡大して、絵にする事はありません。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ここにラスキンの理念が反映されているのです。
それは「作った人のことを考える」というものです。
「中世の名もない職人がこれだけのものを作れた⇒中世を一つの手本にするべきだ」
という考えになるのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
19世紀のイギリスは、産業革命により労働者階級が生まれていきます。
「機械が人間の仕事奪う」という発想から、”機械打ち壊し運動”も起こります。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
ラスキンは「労働者が機械の奴隷になって、毎日同じことばかりやるのではなく、こういった生き生きとした手仕事をしながら、暮らしの中にその手仕事を反映させていく、そういった社会が美しい」と考えるようになるのです。
ある種の「理想的社会主義」の思想になっていきます。
その中で”ラファエロ以前の中世の労働者”に一つの理想を見出していくのです。