2020年6月9日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#349 ぶらぶらプロデュース!夢の特別展①~葛飾北斎の凄さがわかる!漫画家・しりあがり寿「ちょっと可笑しなほぼ三十六景」展~】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
イントロダクション
今回は2018年に東京都墨田区にある「すみだ北斎美術館」でわずか8日間だけ開催された幻の展覧会を取り上げます。
その名も『ちょっと可笑しな ほぼ三十六景 しりあがり寿 北斎と戯れる』展です。
これは葛飾北斎の『富嶽三十六景』と、漫画家のしりあがり寿さんがそこから着想を得て作ったパロディー作品を並べて展示をした展覧会でした。
しりあがり寿さんは映画『真夜中の弥次さん喜多さん』の原作者としても知られる漫画家で、2006年頃からは現代美術作家としても活動しています。
さらに2014年には紫綬褒章を受章しています。
今回はしりあがり寿さんのパロディー作品と元となった北斎作品と合わせてまとめていきます。
《富嶽三十六景》について
日本人なら誰もが知っているといっても過言ではない『富嶽三十六景』。
北斎が70歳の頃に描いた代表作です。
この『富嶽三十六景』では様々な場所から見た富士山を描き、また当時の旅行ブームと相まってたいへんな人気となりました。
しかしこれはただの「名所絵」ではありません。
本来名所絵というのは、名所の場所をわかりやすく描いたものです。
そこを北斎は超越し、近代風景画のように描いている特徴があります。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
今年2020年から日本のパスポートにも『富嶽三十六景』が使われています。
日本を代表するアートの一つであるのが分かります。
海外での評価
欧米をはじめとする海外でも評価の高い葛飾北斎と富嶽三十六景。
アメリカの雑誌『LIFE』誌の特集「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に日本人として唯一選出されるほどの人物なのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
一番有名な「神奈川沖浪裏」はフランスの音楽家ドビュッシー(1862-1918)の楽譜の表紙に使われています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
フランスのポスト印象派の画家アンリ・リヴィエール(1864-1951)は、《富嶽三十六景》にインスパイアされ、『エッフェル塔三十六景』という作品を描いています。
山田五郎さん曰く、「『ジャポニスムだから北斎の影響を受けた』と思われがちですが、ジャポニスムを除いても、北斎は画力の凄さや構図のセンスがある」との事。
また、しりあがり寿さんが北斎をパロディーの対象に選んだ理由について、「パロディーはオリジナルが分からないと伝わらない。北斎は誰でも知っているから(選んだ)」と答えています。
葛飾北斎《富嶽三十六景 凱風快晴》
それでは早速見てまいりましょう。
まずは北斎のオリジナルの作品をご紹介し、次にしりあがり寿さんのパロディー作品をご紹介します。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
「赤富士」の名称で親しまれている《凱風快晴》です。
この「赤富士」は北斎が創作したものではなく、実際にこのように見える時があるといいます。
そもそも凱風の意味は”夏に南から吹くそよ風”の事です。
その夏から秋にかけての早朝に、富士山が朝日を受けて赤く染まるというのがあるそうです。
ちなみにこの「赤富士」、どこから見た景色かというのは「静岡か?山梨か?」で長い事論争になっているといいます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
こちらのすみだ北斎美術館所蔵の《凱風快晴》は版木の木目がはっきりと出ています。
これにより富士山に表情があるように感じられます。
しりあがり寿作《髭剃り富士》
そしてこの《凱風快晴》のパロディー作品がこちらです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
樹海の木々を髭に見立てて、そこを剃るという面白い作品です。
しりあがり寿さんは《凱風快晴》を見て、剃りたい一心でこのパロディーを作ったと言います。
剃った後の地の青い色が、髭の青さをよく表しています。
しりあがり寿さんはパロディー作品を作る際、元の作品に一か所だけ手を加えるようにしたいと言っています。
葛飾北斎《富嶽三十六景 深川万年橋下》
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
続いては江戸から富士山を見た光景です。
(作品の読み方は「ふかがわまんねんばしした」です)
画面手前側の川が小名木川という川で、奥に広がる川が隅田川になります。
小名木川は千葉の方から塩を運ぶために、徳川家康の指示で作られたといわれる人口の運河です。
ですので船の積み荷ももしかすると塩かもしれません。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
川面に使われている鮮やかな青色はベルリンで開発されたベロ藍と呼ばれる色です。
西洋ではベロ藍は油絵で使われますが、浮世絵のような木版画でグラデーションを出すのに使うのは日本独自のものです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
全体の遠近法が独特な作品です。
この時代は既に西洋画が日本に入ってきていましたので、北斎も遠近法を知っていました。
ですので両端の建物は遠近法に則って描かれています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
画面奥(赤く囲われた部分)は遠近法としては高い位置になっています。
これは東洋の平行遠近法と呼ばれる手法で、手前のものを下に、遠くのものを上に描くという日本人になじみの深い遠近法を用いています。
北斎は線遠近法と平行遠近法の2つの遠近法を融合させているのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
本来の消失点の位置に合わせて描くと、対岸の地が低くなり端の方が手前の建物で見えなくなってしまいます。
それを避けるためにあえて遠近法を崩しているのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
本来このアングルからは見えない橋の裏側であったり、橋の脚も三本全て見えてしまったりと様々な視点から見た橋を一枚の絵の中に表しているのも特徴的です。
セザンヌみたいですね。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
富士山の位置はアーチの中で、あえて中央からずらして描かれています。
ここには北斎の巧みな仕掛けが隠されています。
鑑賞者は橋の上で川を見下ろしている人の視線を追います。
そうすると川面の上の船に視線が行きますが、その船の舳先の方向が富士山のある方向になっています。
視線が誘導され、自然と富士山に向くように仕掛けられているのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
アーチ形の丸の中に三角形の富士山を描くという<〇と△>の構図は、北斎の好んだ構図でもありました。
しりあがり寿作《最新料金所》
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
北斎が〇と△で《深川万年橋下》を構成したのに対し、しりあがり寿さんはそこに□(四角形)を足したといいます。
江戸時代の川や水路は今でいう高速道路のような存在というのも込められているのでしょう。
塩を沢山積んだ船は頻繁に利用しているので、ETCゲートの方に行っているのも面白い点ですね。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
《富嶽三十六景》のパロディー作品なのに、肝心の富士山が消えてしまっています。
これには今の高速道路などが風景を見えなくしてしまっていることに対する風刺・・・?も込められているそうです(笑)
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
一般ゲートの方には料金所の係員が加えられているのも面白いです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
いかがでしたでしょうか。
今回はここまでになります。
この続きはパート2でまとめていきますので、よろしければご覧ください。
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