2017年12月2日にテレビ東京にて放送された「美の巨人たち」の【バーニー・フュークス「スプリング・トレーニング・マウンテンズ」】の回をまとめました。
今回の記事はパート2になります。
前回のパート1はこちら☚からご覧いただけます。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
フュークスはスポーツをどう描くのか
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
1961年、フュークスが29歳の時に、スポーツ月刊誌『スポーツ・イラストレイテッド』よりイラストのオファーを受けます。
スポーツの現場に数多く足を運んでいく中で、彼は独特の視点と哲学を持つようになりました。
例えば、アメリカ人が愛してやまないベースボール。
その一投一打に観客は熱狂します。
そのベースボールをフュークスが描くと…
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
描かれているのは巨大なフェンス、そしてその前に立つ選手一人が小さく描かれているだけです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
この作品ではフェンスの隙間からグラウンドをのぞき込む少年が主役のようです。
その視線の先にはあるのは、夢と希望、そして憧れです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
グラウンドから遥か離れた視点から描かれた一枚です。
フィールドは巨大なスタンドの影に覆われています。
ダイヤモンドは暗く、外野は明るく。
選手たちはとても小さく描かれています。
じつはこれらの作品には、フュークスのスポーツイラストの哲学がありました。
スポーツイラストの哲学
それではフュークスのベースボール以外の作品を見てみましょう。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
描かれているのはロサンゼルス五輪の女子マラソンの金メダリストです。
この絵だと誰だか分からないですよね
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
こちらはバスケットボール選手のネイト・アーチボルトを描いた作品ですイラストです。
彼はNBA史上唯一、得点王・アシスト王の二冠を達成した英雄的選手ですが、こちらもシルエットだけで、顔は判別できません。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
このゴルフのプレーの様子を描いた作品では、画面の大半を木々が埋め尽くしています。
手前には会心のショットを放ったプレイヤーがいますが、視線はその奥のギャラリーに誘導されます。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
ここで2つ目のキーワードです。
「絵の主役は一体誰なのか?」
絵画研究家のデヴィッド・アパトフ氏はフュークスの作品について次のように語ります。
「フュークスは、スポーツを”自然の中に映える動きの美しさ”という視点からとらえました。ですので、絵画の中で選手たちの占める割合は小さいですが、空や背景の木々といった自然の美しさを描いたのです」
フュークスは、スポーツという人間の活動と雄大な自然を絵の中で融合させたのです。
絵を見る人はたとえ選手の顔が見えずとも、その雰囲気や感情に共感することができるのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
この《スプリング・トレーニング・マウンテンズ》も、まさにスポーツと自然が融合した一枚になっているのです。
フュークスとスポーツ「最も重要なこと」
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
絵画やイラストにとって、強力なライバルが「写真」です。
写真は対象を早く・完璧に写し取ることができます。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
この時代、多くのイラストレーターが写真を敵視していました。
しかしフュークスは違っていました。
彼は積極的に写真を利用したのです。
彼はスポーツの現場で自らカメラを構え、その写真をアトリエで再構築し、作品にしたのです。
写真は早く・正確に対象を捉えます。
それに比べて絵画は単純な正確さ以上のこと、具体的に言うと「人間の意思」を反映することができるのです。
形を変え、引き伸ばし、優先度を変更することで、フュークスは描きたいものや伝えたいことを強調したのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
フュークスは次のような言葉を残しています。
「仕事がアーティストによってなされるか、カメラによってなされるかは問題ではない。
重要なことは、その物語が正しく説明されているかどうかだ」
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
彼が描きたかったのはそこにある「物語」だったのです。
この作品では、わずかな隙間からグラウンドを覗き見る少年の中にある、いくつものストーリーを表現しているのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
待ちわびた春。ここから長いシーズンが始まります。
その喜びの光景が描かれているのです。
フュークスはプレイヤーに焦点を置くのではなく、取り巻く環境の詩的な美しさを描こうとしたのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
そしてこの作品で、詩的な美しさをより演出しているのが背景の山々です。
その山肌は淡い光を放っているようです。
じつはここにフュークス独自の表現がありました。
色が溶けている?!
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
それは「消し取り描法」と呼ばれるものです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
「色が溶けている」
ここでキーワードの3つめです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
まず全体に薄く着色を施します。
その後テレピン油をしみ込ませたペーパータオルで、明るくしたい場所の絵具を拭き取り、形を作るのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
これにより絵の内部から光を放つような効果が得られるのです。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
これがフュークスの生み出した光の表現です。
この光が作品をより詩的に、ドラマチックなものにしているのです。
さいごに
《スプリング・トレーニング・マウンテンズ》の持ち主で、毎日この作品を眺めている原辰徳氏は次のように語ります。
画像出展元:テレビ番組「美の巨人たち」より
「選手の動きがすごい鮮明に描いているという事は、とてつもなくスポーツを愛して描いたんだとうなという気がします」
春のキャンプの光景です。
そこにいる誰もが間もなく始まるシーズンに胸躍らせています。
フュークスが描いたのは、スポーツとアートの麗しき融合だったのです。
今回の記事はここまでになります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
[…] 今回の記事は一旦ここまでになります。 パート2へと続きます。 【美の巨人たち】バーニー・フュークス②【美術番組まとめ】 […]