2020年2月15日にTOKYO MXで放送された「アート・ステージ~画家たちの美の饗宴~」の【モダンデザインの源流 モリスとアーツ・アンド・クラフツ運動】の回をまとめました。
番組内容に沿って、それでけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
今回のテーマは「アーツ・アンド・クラフツ運動」です。
イントロダクション
皆さまは「アーツアンドクラフツ運動」という言葉は御存知でしょうか?
19世紀後半のイギリスで起こったデザイン運動で、ウィリアム・モリスという人が主導しました。
「生活の中に美を」
家具や日用品をただ用途としての機能だけでなく、美しさも兼ね備えるというこの発想は、「アーツアンドクラフツ運動」がルーツと言えます。
ウィリアム・モリス
では、まずそのウィリアム・モリスについてまとめていきます。
モリスは19世紀後半に活躍したイギリスのデザイナーです。
食器・家具・テキスタイル(布地のデザイン)など、モリスは身の回りのあらゆるものをデザインしました。
「美しい日用品が、生活の質を高める」と彼は考えていたのです。
特に彼のデザインした壁紙は今でも多くの人に愛されています。
植物をモチーフにしたやわらかな曲線や、自然そのものが持つ繊細な色合いなどを取り入れています。
自然の美を参考にしながら、それらをデザインとしてまとめあげています。
自然の姿のままではなく、そこに人間の手がプラスされた状態がベストだとモリスは考えていました。
モリスは日用品だけでなく、家屋や庭といった生活空間全体を視野に入れていました。
ステンドグラス
画像出展:wikipediaより
こちらはモリスがデザインしたステンドグラスです。
あまり知られてはいませんが、彼はステンドグラスも手掛けました。
中世以来の伝統に新たな息吹を吹き込んだ彼の作品は高く評価され、1862年のロンドン万国博覧会ではメダルを獲っています。
絵画作品
《美しきイズー》1858年
ウィリアム・モリス
イギリス、テート・ギャラリー蔵
こちらはウィリアム・モリスが24歳ころに描いた作品です。
彼は元々、画家を志していました。
しかし当時のイギリスの社会状況が、モリスをデザイナーの道へと進ませるのです。
それは18世紀後半にイギリスで起こった産業革命です。
効率を重視した工業化は、それまで不可能であった大量生産を可能にしました。
それにより、商品の値段も安くなり多くの市民が購入できるようになりました。
しかしその代償に個性や美しさは失われ、粗悪品も出回ることになりました。
労働の形もこれまでとは変わり、職人の昔ながらの技法や伝統が失われていきました。
産業革命以前は手作業であったため、職人たちは一点一点丹精を込めて手作りしてきました。
それが産業革命になり、ただ利益のために大量生産する一労働者となり、技法や伝統、そしてモノ作りの喜びは失われていきました。
ジョン・ラスキン
そんな時代の変化に「待った」の声を上げる人が現れました。
彼の名はジョン・ラスキン(John Ruskin、1819~1900)です。
モリスと同じくイギリスで活躍した思想家であり、美術評論家です。
モリスより15歳年上です。
ラスキンが批判したのは、創造と労働が別々になった事でした。
そしてそれらが一致したものとして、中世のゴシック建築に理想を見出します。
このラスキンの思想は、同時代の文化人を突き動かします。
ウィリアム・モリスも学生時代にラスキンの著書に出会い、影響を受けた一人です。
モリスはラスキンから「思想」を学んだのです。
ラファエル前派
そのラスキンから影響を受けた芸術運動が、「ラファエル前派」です。
当時の若い画学生が、アカデミックな画壇に反旗を翻しラファエルより前の時代の美術を手本にしました。
ウィリアム・モリスも大学卒業後、「ラファエル前派」に合流します。
リーダー格のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティやエドワード・バーン=ジョーンズらと共に新しい芸術を追求していきます。
芸術品の美から日用品の美へ
やがてモリスは芸術品よりも日用品の美を追求していきます。
美しい日用品の方が、人々を幸せにすると考え始めます。
その理念を実現するために、1861年に「モリス・マーシャル・フォークナー商会」を設立します。
この会社が手掛けたのは、ステンドグラスや家具、壁紙などで、それらをデザインから制作まで一括管理しました。
そんなモリスの活動に影響されて、イギリス各地に工房が作られるようになりました。
それらがやがて、最初にご紹介した「アーツアンドクラフツ運動」という大きな流れへと発展していくのです。
「アーツアンドクラフツ」の動きは、その後の万国博覧会などを通じてヨーロッパ各地に伝わりました。
フランスのアール・ヌーヴォーは、モリスの壁紙に見られるような植物的な曲線美から影響を受けています。
クリムトが中心となった、ウィーン分離派も「アーツアンドクラフツ運動」がなければ起こらなかったと考えられています。
現代のデザインへの影響
ウィリアム・モリスから始まった「アーツアンドクラフツ運動」、そしてモダンデザインは、時間をかけて日本にも届きました。
日本におけるモダンデザインの普及に多大な貢献をした一人が、ドイツ生まれの建築家ブルーノ・タウトです。
彼は1933年に来日し、仙台の商工省工芸指導所で後進の育成に尽力しました。
さいごに
モリスの言葉で以下のものがあります。
「役にたたないもの、
美しいと思わないものを、
家に置いてはならない。」
(Have nothing in your houses that you do not know to be useful or believe to be beautiful.)
美しいデザインによって生活を豊かにし、人間の尊厳を守ろうとしたウィリアム・モリス。
それらは各国に広がり、現代においてもなお古くなっていません。