2021年5月2日にNHKで放送された「日曜美術館」の【私は世界でもっとも傲慢な男 ―フランス・写実主義の父 クールベ】の回をまとめました。
今回の記事はパート2になります。
前回のパート1はこちら☚からご覧いただけます。
番組内容に沿って、+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
《画家のアトリエ》の解説
ギュスターヴ・クールベの代表作《画家のアトリエ》。
この記事では、先ずこの作品に描かれている人物や時代背景について詳しく見ていきます。
クールベは画面右側を「生きている世界」と呼んでいます。
こちら側に描かれているのは、クールベの理解者や支援者です。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
ここには詩人のボードレールや、友人で美術批評家のシャンフルーリらが描かれています。
クールベと実際に関わりの深かった人物が右側に登場します。
「こういった人たちに支えられて、自分は制作活動を続けてきた」。
そんな意味が込められているのかもしれません。
一方の左側。「死んでいる世界」と呼ばれたこちら側について、クールベは友人宛の手紙の中で解説しています。
画面の一番左側で立っているのがユダヤ人です。
他には猟師や道化役者、労働者、そして貧乏人と金持ちなどが登場します。
「搾取される者と搾取するものがいる」とクールベは言っており、悲惨な現実社会を表してるといえます。
では、画面の右側と左側とで、どのようなイメージがあったのでしょう。
そのヒントは、この《画家のアトリエ》の副題にありました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
「芸術家としての私の人生の7年間を確定する現実的寓意画」
《画家のアトリエ》にはこのような副題がついているのです。
な、長い副題ですね…
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
ここでいう「7年間」というのは、1848年から1855年までの「7年間」を表しているといいます。
その始点となる1848年はフランスで二月革命という市民革命が起こります。
それにより、民衆が主導権を握る共和制が実現されると思われていました。
しかし、あの有名なナポレオンの甥にあたるナポレオン3世が大統領となり、その後クーデターを起こし、「第二帝政」という新しい政治体制を築きます。
これにより専制的・圧政的な政治が復活する事となるのです。
この《画家のアトリエ》という作品は、クールベの第二帝政に対するアンチテーゼと捉えることができるのです。
帝政によって社会の中に格差が生まれた、クールベはその”現実”を画面に表現しているのです。
番組解説の三浦篤氏は「特にこの7年間というのは、クールベがある意味で一番闘争的だった時代と言っていいんじゃないでしょうか」と言います。
そして、じつはこの絵の中にナポレオン3世が描かれているといいます(これには諸説あります)。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
それがこの座っている人物。
この人物は猟師なのですが、当時から密猟者とも言われていました。
その密猟者が皇帝ナポレオン3世、その人を表しているのでは?と言われています。
なぜ密猟者が皇帝なのでしょう?
ナポレオン3世はクーデターを起こして、第二共和政を乗っ取り、第二帝政を作った人物です。
左側の一番目立つ位置に描かれた密猟者(皇帝)は、”悲惨な第二帝政の社会を作った責任者であり、その中心人物”として表されているのです。
ここで重要な事は、クールベはそれを明確に、誰が見ても分かるような形では描いていない、という事です。
もし、そんな事をすればクールベの身にも危険が及ぶ可能性があります。
しかし「見る人が見れば分かる」という風になっているのです。
そういった意味でも、副題にある「現実的寓意画」になるのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
「ナポレオン3世がこの絵を見てどう思ったかっていうのは分かっていないですけれども、もし見たとしたら、ちょっと『うん?』と思ったかもしれませんね」(三浦篤氏)
しかし絵の中心、この世界の中心に描かれているのは画家自身です。
左側の世界、政治の世界ではナポレオン三3世が中心だけれども、芸術の世界では自分が主人公である、そんな挑発的な絵にも見えてくるのです。
後半生のクールベ
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
《狩の獲物》と題されたこちらの作品。
ここでも「ありのままの現実を描く」というクールベの姿勢は、荒々しい野生の動物を描いた”狩猟画”でも反映されています。
クールベは毎年秋には故郷に帰り、狩りをしていたといいます。
この絵は「獲物を木につるし、その肉を猟犬と分かち合う」という地元に伝われる儀式を描いたものです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
こちらの作品では、冬の雪山の中で、2頭のオスの鹿が1頭のメスをめぐって、激しく争う様子が描かれています。
実際にあった出来事を元に描かれたこの作品についてクールベは、「僅かな理想もなく、数学のように正確に描いた」と語っています。
そこには厳しい野生に対するクールベの敬意が感じられます。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
クールベは40歳になると、新たな主題を見つけます。
ちょうどこの時期、鉄道の開通によって観光ブームが始まっていました。
フランスの北西部の海に面したノルマンディーには、レジャーを楽しむ人が数多く足を運びました。
画家もまたこの地に出向き、当時の人々の姿を描いています。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
クールベと同時代の画家で、あのモネの最初の絵の師匠としても知られるウジェーヌ・ブーダンの作品です。
《浜辺にて》と題されたこの作品では、日傘や帽子、華やかな衣服をまとった女性たちが描かれます。
当時の浜辺は社交の場でもあり、このような華やかな絵もまた人気になりました。
しかしクールベの描いた「海」は違っていました。
展覧会「クールベと海」展
東京のパナソニック汐留美術館では、2021年4月10日(土)~6月13日(日)まで「クールベと海」展と題した展覧会が開催されています。
クールベは海辺に集う人々ではなく、純粋に海そのものを見たままに描いているのです。
彼は生涯に約100点の「海の風景画」を描き、その内の40点が”波そのもの”をクローズアップして描いた作品です。
波が崩れ落ちる瞬間の水しぶきの部分。
ここは非常に革新的な描かれ方になっています。
クールベは絵筆ではなく、パレットナイフに白い絵具をつけて、直接盛り上がりができるように表現しています。
この作品はサロンでも絶賛されます。時代がクールベに追いつきつつあったのです。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
続いての作品は海の絵から一転、クールベが生まれ育ったオルナンで見られる岩山を描いた作品です。
クールベはこのような複雑で野性味あふれる風景を繰り返し描いています。
単に美しいだけではなく、人間を圧倒するような厳しさも捉えたクールベの風景画。
当時彼の作品は地方のコレクターから人気がありました。
画像出展元:テレビ番組「日曜美術館」より
この作品も岩肌のごつごつとした表現が特徴的です。
絵筆だけではなく、「波の絵」と同様に、パレットナイフで画面が盛り上がるように描かれています。
この技法は一種のクールベらしさになっています。
「レアリスム宣言」を掲げたクールベは、自然に対しても、ありのままの姿を写し取ることにこだわったのです。
今回の記事はここまでになります。
パート3へと続きます。
コメント
[…] 今回のパート1はここまでになります。 パート2では、《画家のアトリエ》について詳しくまとめていきます。 こちら☚からご覧頂けます。 […]