2021年3月9日にBS日テレにて放送された「ぶらぶら美術・博物館」の【#372 三井記念美術館「小村雪岱スタイル 江戸の粋から東京モダンへ」〜歴史に埋もれた“和モダン”の天才が今、復活!山下裕二先生の徹底解説で〜】の回をまとめました。
今回の記事はパート2になります。
前回のパート1はこちら☚からご覧いただけます。
番組内容に沿って、それだけでなく+α(美術検定で得た知識など)をベースに、自分へのメモとして記事を書いていこうと思います。
見逃した方やもう一度内容を確認されたい方は是非ご覧になって下さい(^^♪
邦枝完二 『繪入草紙 おせん』 装幀:小村雪岱
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
小村雪岱は本の装幀のみならず、挿絵も手掛けていました。
こちらは小説家・邦枝完二の『おせん』という作品の挿絵を描いたものです。
邦枝完二の『おせん』は昭和8年から朝日新聞で連載が始まりました。
〈おせん人気〉に朝日新聞の発行部数も伸びたといわれているほど、社会現象になったといいます。
雪岱は200作以上の小説の挿絵を描き、その絵の総数は6000を超えると言われています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
表紙には屏風の後ろに女性(おせん)が立っている姿が描かれていますが、その屏風はまるで本を開いたような形になっています。
「本を開くと中からおせんが出てくる」というデザインになっているのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
注目すべきは背表紙の部分です。
「おせん」の下に、作者の邦枝完二と並び小村雪岱の名もありますが、両者の名前が同じサイズで書かれています。
普通挿絵を描いた人が、小説の作者の名前と同列に書かれるというのはあり得ないことです。
いかに『おせん』という作品において、雪岱の名も重要であったのかが分かります。
邦枝完二との相性も良かった雪岱は、この後も数多くの挿絵を手掛けていきます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
邦枝完二は自身のエッセイの中で、雪岱についてこのように述べています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
この物語の主人公、おせんは実在の人物です。
「笠森おせん」という名で、笠森稲荷門前の水茶屋「鍵屋」の看板娘でした。
江戸時代の絵師・鈴木春信が彼女をモデルにした作品を描いています。
当時かなり人気の看板娘で、今でいうアイドルのような存在だったといいます。
店先では春信が描いたおせんの美人画が売られたり、おせん手ぬぐいやおせん双六などグッズも販売されていたといいます。
山田五郎さんは曰く「会いに行けるアイドルの元祖」とのこと。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
雪岱の描いたおせんは、どことなく春信のものと似ています。
『おせん』のヒットがきっかけとなり、雪岱は当時から「昭和の春信」と呼ばれていました。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
今回の展覧会では、その春信と雪岱の作品が並んで展示されています。
《夜更け》鈴木春信
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
先ずは鈴木春信の作品から見てまいります。
この『夜更け』という作品では、遊女と禿(かむろ、遊女見習いの幼女の意)が描かれています。
夜更けに遊女が「禿はどうしているだろうか?」と思い部屋から出たところ、禿は床で眠っていたというストーリーの作品です。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
山下先生はこの遊女のポーズが非常に重要だといいます。
上の図のように、首から下半身にかけてのラインがしなっていて、その足元に斜めの線が入っています。
『おせん 縁側』雪岱
続いて雪岱がどのように描いているか見てみますと…
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
確かに!よく似ていますね!
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
雪岱は「昭和の春信」と言われていましたが、図柄の近い組み合わせはこれまで発見されていなかったといいます。
ところが山下先生が今回の展覧会の準備している最中に、この共通点に気づいたといいます。
山下先生は「雪岱は春信の『夜更け』を見ているだろう」と推測します。
しかしそれをそのまま模写するのではなく、そのエッセンスを自分の中に取り込んで、さらにシンプルな表現にしたのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
極めて似ているこの2枚ですが、逆に異なる点はどこになるのでしょう。
雪岱の作品の方が、春信の作に比べて胸元がはだけているのが分かると思います。
「雪岱はそれによりセクシャルな意味を持たせようしたわけではない」と山下先生はいいます。
雪岱の描く美人画は非常に清潔感があり、エロチシズムは見られないのです。
”胸元をはだけさせているにもかかわらず、セクシーさを出さない”これが雪岱の美人画のすごいところといえるのです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
これには雪岱の幼少期の体験が関連しているといいます。
4歳の時に父親が病死し、その後母親は離籍され、そのまま生き別れになってしまいます。
雪岱は自身のエッセイの中で「幼い時に見た母の顔の記憶がずっと忘れられない。」と語っています。
そういう意味でいえば「彼は究極のマザコンだ」と山下先生はいいます。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
雪岱は「私が描く女性には個性がない」と自ら話しており、さらに「写生、写実に興味なし」と言い切っています。
ですので、モデルを使って描くという事も一切やらず、すべて自分の頭の中のイメージを絵にしているのです。
それ故に、「シンプルで清潔な女性像」を描けたのです。
そしてその無機質さこそが、「モダン」になるのです。
おせん 雨
こちらも同じく邦枝完二の『おせん』の新聞連載の挿絵を作品化したものです。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
画面右下、黒い頭巾を被っているのがおせんです。
おせんに思いを寄せる若旦那から、おせんが逃げていくシーンを描いています。
描かれている傘の角度を微妙に変えて、円と楕円で画面が構成されています。
そこに雨の直線が入り、素晴らしい仕上がりになっています。
画像出展元:テレビ番組「ぶらぶら美術・博物館」より
この作品のように大胆な余白を取るスタイルは「雪岱調」と呼ばれるようになっていきます。
新聞連載の挿絵という事で、当然紙面にはずらーっと文字が並びます。
そこに余白のある挿絵を入れることで、デザインがより映えて見えるように工夫したのです。
今回の記事はここまでになります。
続くパート3では、雪岱の代表作《青柳》《落葉》そして《冬の朝》についてまとめていきます。
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